TOB不成立 早くも前年に並ぶ6件、「敵対的」案件増に呼応

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写真はイメージです(東京・大手町のビル群)

TOB(株式公開買い付け)の不成立が相次いでいる。今年はすでに6件を数え、4カ月余りを残して過去最高だった前年分と並んだ。こうした背景にあるのが対象企業の同意を得られずに行われる敵対的TOBの増加だ。

不成立6件中、「敵対的」4件

ENEOS系石油販売会社の富士興産(東証1部)の子会社化を目的にTOBを実施していたシンガポール投資会社のアスリード・キャピタルは8月24日、関東財務局にTOB撤回届出書を提出した。これにより、TOB不成立が確定した。TOBに反対する富士興産が6月下旬の株主総会で新株予約権の無償割り当てによる買収防衛策を可決したことを撤回の理由としている。

TOBの不成立は富士興産の案件で今年6件目となったが、うち4件は富士興産のケースと同様に敵対的TOBだ。残る2つの不成立案件はMBO(経営陣による買収)の一環として行われたTOBだった(一覧表を参照)。

敵対的TOBそのものは今年に入って5件あるが、成立したのは東京製綱株を買い増した日本製鉄の1件だけ。敵対的TOBは2020年に年間5件発生し、2007年(5件)以来13年ぶりの高水準となったが、今年も増勢が続いている。

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フリージア、シティもTOB撤回

敵対的TOBに発展すると、対象企業は買収防衛策で対応するのが一般的。フリージア・マクロスは7月末、日邦産業の持ち分法適用関連会社化を目的に1月末から実施していたTOBを撤回した。日邦産業の買収防衛策に関する名古屋地裁への仮処分命令の申し立てが棄却される見通しとなったのを踏まえての判断だ。

旧村上ファンドの投資会社シティインデックスイレブンス(東京都渋谷区)が日本アジアグループの全株取得を目指して2月~3月に行ったTOBでも撤回があった。日本アジアが対抗措置として純資産の52%(帳簿価額)に相当する特別配当を実施する方針を打ち出したのを受け、TOBを維持することは著しく経済合理性を欠くとして取り下げたのだ。

もっとも、日本アジアを巡っては「続き」があった。シティは4月末に日本アジアに対する再TOBに乗り出し、今度は日本アジアも賛同に転じ、7月末にTOBが成立した。日本アジアは昨年秋、MBOで株式の非公開化をもくろんだが、不調に終わり、二転三転の末にシティの傘下に入ることになった。

買収防衛策、「有事」型が主流に

上場企業の間では買収防衛策を廃止する動きが年々広がっている。平時に買収防衛策を継続することは経営陣の保身につながりかねないなどとの批判があるためで、近年は新たな買収者が出現した“有事”に際して買収防衛策導入の是非を検討するケースが主流になりつつある。

◎2016年以降:TOB不成立の一覧(対象企業のカッコ内の反対は敵対的TOBのケース)

買付者 対象企業
2021 フリージア・マクロス 日邦産業(反対)
シティインデックスイレブンス 日本アジアグループ(反対)
経営陣 サカイオーベックス(賛成)
経営陣 光陽社(賛成)
米スターウッド・キャピタル・グループ インベスコ・オフィス・ジェイリート(反対)
アスリード・キャピタル(シンガポール) 富士興産(反対)
2020 シティインデックスイレブンス 東芝機械(反対)
META Capital 澤田ホールディングス(反対)
DCMホールディングス 島忠(留保)
ストラテジックキャピタル 京阪神ビルディング(反対)

経営陣と米カーライル・グループ

日本アジアグループ(賛成)
出光興産 東亜石油(賛成)
2019 経営陣と米ベインキャピタル 廣済堂(賛成)
南青山不動産 廣済堂(中立)
エイチ・アイ・エス ユニゾホールディングス(反対)

米フォートレス
ユニゾホールディングス(反対)
2018


2017
富士通
ソレキア(賛成)

経営陣 東栄リーファーライン(賛成)
2016


文:M&A Online編集部