2022年第2四半期 TOBプレミアム分析レポート

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1.2022年第2四半期のTOB総評

TOB(株式公開買い付け)件数は第2四半期としては2年ぶりの増加(2020年と2021年は同数)となった。一方、金額は小口案件が多く、3年連続の減少。上期累計(2022年1〜6月)だと件数は前年同期と同じだったが、金額は大幅に減少した。

第3四半期は7月が1件、8月が6件の計7件と前年実績の6件を1件上回っている。ただ、前第3四半期は14件あり、残る9月で7件を超えるTOBが発生するかどうか微妙な情勢だ。第3四半期までの累計では、前年同期を下回る可能性もある。

◆TOB年間・四半期期間比較

➡ 2022年第2四半期のTOBデータ(全件)はこちら

2.TOBの推移

TOB件数は15件と前年同期を6件上回ったが、上期累計では33件と前年よりも5件減っている。金額は振るわず、前年同期比12.8%減の約2580億円。100億円未満の小型案件が9件と多く、伸び悩んだ。上期累計では同62.6%減の約4473億円にとどまった。

敵対的TOBは0件で前年同期を2件下回った。上期累計も0件で対前年比5件減と、敵対的TOBは鳴りを潜めている。このまま通年で敵対的TOBが起こらなければ、2016年以来6年ぶりとなる。

MBO(経営陣による買収)は3件で、前年同期を1件下回った。上期累計では7件と、前年上期を4件下回っている。

◆TOB件数・金額の推移(公開買付開始日届出ベース)

3.2022年第2四半期の注目案件

◆注目のTOB案件(買収プレミアムは3カ月平均株価で算出)

第2四半期で最も金額が高かったのは、近鉄グループホールディングス(HD)<9041>が5月16日に開始した近鉄エクスプレス<9375>を完全子会社化するためのTOBで、買付代金は1443億1000万円。近鉄グループHDは現在、間接保有を含めて近鉄エクスプレスの株式47%余りを保有し、持ち分法適用関連会社としていた。TOB成立を受けて、近鉄エクスプレスの東証プライム上場は廃止される。

コロナ禍や米中対立、ウクライナ危機などで国際物流を取り巻く環境が大きく変化する中で、近鉄グループ全体で経営資源の最適配分を行える体制づくりが重要と判断した。

買付価格は1株につき4175円。32.71%のプレミアムを加えた。買付予定数は4024万1756株。買付予定数の下限は所有割合22.56%にあたる1624万2600株。買付期間は5月16日~7月5日。決済開始日は7月12日。公開買付代理人は野村証券。7月5日にTOBを完了した。

近鉄エクスプレスの前身は1948年に近畿日本鉄道に発足した業務局観光部にさかのぼり、国際貨物・旅客の取り扱いを開始。航空事業が1955年に設立された近畿日本ツーリストに引き継がれ、1970年に同社から近鉄航空貨物として独立した。

日本初の航空貨物専業会社とされ、1989年に現在の近鉄エクスプレスに社名を変更している。2002年に東証2部、2003年に東証1部(2022年4月に東証プライムに移管)に上場した。

一方、第2四半期で最も買収プレミアムが高かったのは、マーキュリアホールディングス<7347>が5月23日に始めた包装関連設備のミューチュアル<2773>に対して完全子会社化と株式非公開化を目的に実施したTOBの154.96%。買付代金は110億300万円だった。

ミューチュアルはコロナ禍による経営環境の変化に加え、取締役・監査役8人の役員の平均年齢が71.5歳と高齢化が顕著で、次世代経営陣へのバトンタッチが急務という事情を抱えていた。そのため持続的な成長に向けて、外部の経営資源を活用することが有益と判断した。TOBの成立でミューチュアルの東証スタンダード市場への上場は廃止される。

マーキュリアは日本政策投資銀行系の投資会社で、TOBの買付主体はマーキュリア傘下のエムズ(東京都千代田区)。買付価格は1株につき1800円。買付予定数は645万1762株。買付予定数の下限は所有割合66.67%にあたる430万1200株に設定した。買付期間は5月23日~7月14日。決済の開始日は7月25日。公開買付代理人は大和証券。7月14日にTOBを完了した。

ミューチュアルは医薬品や化粧品、食品業界向けの包装関連設備を中心に産業機械の輸出入、製造・販売を手がけている。前身のミューチュアルトレイディングは1949年に国産機械の輸出を目的として大阪市で設立。1983年に現社名に変更した。2003年に株式を店頭登録、2004年にジャスダックに上場(2022年4月に東証スタンダードに移管)した。

4.TOBプレミアムの推移

◆買収プレミアムの推移(非上場および不成立案件を除く)

総プレミアム平均、ポジティブプレミアム平均ともに、第2四半期としては2年ぶりの上昇となった。これはディスカウントプレミアム案件がなかったのに加えて、60%超の高プレミアム案件が5件と、前年同期の1件を大きく上回ったため。

5.TOBプレミアムの分布水準

◆TOBプレミアムの分布(非上場および不成立案件を除く)

上期では2021年が50%超が約13%、40〜50%が約7%と合計で20%程度だったのに対し、2022年は50%超だけで約35%に達しており、高プレミアム案件が急増している。

第2四半期のプレミアムトップは前述のマーキュリアホールディングスによるミューチュアルへのTOB(154.96%)、次いでフェローテックホールディングス<6890>が6月6日に開始した東洋刃物<5964>へのTOBの77.2%、島津製作所<7701>が6月17日に開始した日本水産<1332>傘下の日水製薬<4550>へのTOBの74.9%の順。

上期では1位がマーキュリアホールディングスによるミューチュアルへのTOB、2位がATグループ<8293>が2月7日に開始したMBOの97.32%、3位がフェローテックホールディングスによる東洋刃物へのTOBだった。

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・2022年第1四半期 TOBプレミアム分析レポート


【ご利用上の注意】

・2022年8月31日12時00分時点のデータである。
・2022年4月1日から2022年6月30日に公開買い付けが開始された案件を集計対象としている。ただし自社株TOBは対象外である。
・プレミアム算定に採用している株価は特に断りがない限り、公開日または基準日3カ月平均株価(終値)としている。
・プレミアム算定に非上場企業、不成立、公開買い付け中の案件は含まれない。

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データ・文:M&A Online編集部