「スルガ銀行」株は売りか買いか。米、英、豪3投資会社の判断は

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同社ホームページより

スルガ銀行<8358>の株式を巡って米、英、豪の3投資運用会社の動きが活発化してきた。3社が直近1年間(2017年9月12日―2018年9月11日)に提出した大量保有報告書で分かった。

ブラックロック社、ベイリー・ギフォード社は売りに

運用資産残高が700兆円ほどの米国のブラックロックは、2018年3月6日に新規保有したスルガ銀行株の一部を9月6日に売却し、保有割合を半分ほど(5.04%→2.82%)に引き下げた。

運用資産残高が27兆円ほどの英国のベイリー・ギフォード・アンド・カンパニーも、2018年3月7日に買い増したスルガ銀行株を9月5日に売却、保有割合をゼロ(6.03%→0%)とした。

一方、オーストラリアのプラチナ・インベストメント・マネジメント・リミテッドは、2018年6月12日に新規に保有したスルガ銀行株を7月19日に買い増し(5.07%→6.12%)した

米、英、豪3投資運用会社のスルガ銀行株の保有状況

企業名 提出日 保有割合 増減
ブラックロック 2018/09/06(木) 2.82 -2.22
2018/03/06(火) 5.04 0
ベイリー・ギフォード・アンド・
カンパニー
2018/09/05(水) 0 -6.03
2018/03/07(水) 6.03 1.02
プラチナム・インベストメント・
 マネージメント・リミテッド
2018/07/19(木) 6.12 1.05
2018/06/12(火) 5.07 0

スルガ銀行は2018年5月に破産したシェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営していたスマートデイズと提携し、シェアハウス購入者に融資を行っていた。

スルガ銀行の融資実態を調査していた第三者委員会は9月7日に公表した調査報告書で、審査書類などに多くの改ざんや偽造が行われ、相当数の社員が関与していたと結論づけた。

スルガ銀行は2018年5月に危機管理委員会による調査結果を公表し「スマートデイズの関連の販売会社により、融資を受けるに際して顧客がスルガ銀行に提出する自己資金の残高を証明する通帳等の偽造・改ざんが相当数行われていた」と不正を認めていた。

こうした事態を受けてスルガ銀行株売却に動いたブラックロックとベイリー・ギフォード・アンド・カンパニーとはどのような企業なのか。

プラチナ社は買いに

ブラックロックは米国の投資運用会社で、ニューヨークやロンドン、東京などの25都市に運用拠点を持つ。運用資産残高は6.3兆米ドル(約700兆円)に達する。同社の投資姿勢は長期保有を基本としており、企業は利益の追求だけでなく、社会への貢献が必要としている。

ベイリー・ギフォード・アンド・カンパニーは英国の投資運用会社で、国債や通貨、新興市場債、株式などに投資し、総額は1929億ポンド(約27兆3900億円)に達する。同社はホームページで「10年間を目指す長期的な投資を行う」としており、自らを「投機家ではなく長期投資家である」としている。

スルガ銀行の不正融資の事態を受けてブラックロックとベイリー・ギフォード・アンド・カンパニーは、今後スルガ銀行の業績が悪化し、株価が下落すると見込んでスルガ銀行株の保有割合を下げたり、手放したりしたものと思われる。

一方、不正融資が明らかになった5月以降にスルガ銀行株を新たに保有し、さらに買い増しているプラチナ・インベストメント・マネジメント・リミテッドにはどのような戦略があるのだろうか。

プラチナ・インベストメント・マネジメント・リミテッドは1994年に設立されたオーストラリアの投資運用会社で、世界中の上場企業に投資しており、現在の投資額は約260億豪ドル(約2兆500億円)。同社のホームページによると「真の価値と見通しがまだ市場によって完全に認識されていない企業を探し出し、長期的な収益を達成することに焦点を当てて投資する」としている。

この文面からは、スルガ銀行が今回の騒動を乗り越え、新たな成長路線を歩むとの判断を下したと見ることができる。

では新たな成長路線とはどのようなものがあるだろうか。

仮想通貨の技術で活路を見い出せるか

スルガ銀行は仮想通貨技術の一つであるブロックチェーンを用いた携帯電話用のアプリケーション「Money Tap(マネータップ)」を用いた送金サービスを近く始める。

365日24時間いつでも安全で即時に送金ができるシステムで、送金手数料が大幅に安くなるなどのメリットがある。

日銀のマイナス金利政策の影響で、銀行経営は厳しい環境下にある。このため銀行業界に低コストで処理ができるブロックチェーンや仮想通貨を用いたシステムを導入する動きが活発化しつつある。

プラチナ・インベストメント・マネジメント・リミテッドは、こうした新しい動きにいち早く対応しようとしているスルガ銀行の将来に可能性を見い出しているのかも知れない。

現在スルガ銀行株の3社合計の保有割合は8.94%で、ベイリー・ギフォード・アンド・カンパニーがスルガ銀行株を手放した9月5日の前日の16.14%から大きく下がっている。

今後、プラチナ・インベストメント・マネジメント・リミテッドはさらに買い増すのか、それとも見切りをつけて売却するのか。また他の投資運用会社はどのような行動にでるのか。スルガ銀行の今後の動きとともに目が離せない。

地銀の統合やM&A浮上のきっかけにも

スルガ銀行の地元静岡県にはスルガ銀行のほかに静岡銀行、清水銀行、静岡中央銀行の合わせて4行の地方銀行がある。

公正取引委員会は2018年8月にふくおかフィナンシャルグループと十八銀行の経営統合を認めた。それまで公正取引委員会は十八銀行の地盤である長崎県内での市場独占率が高くなることを理由に、統合の差し止め命令を発令していたが、両行が市場占有率を引き下げる対応を取ったことで、一転統合を認めることになった。

スルガ銀行は第三者委員会の調査結果が公表された9月7日に、「2018年6月末時点において、単体自己資本比率は12.14%であり十分な健全性を有している」とのコメントを発表した。

今回の不正融資によって、スルガ銀行がすぐに経営難に陥ることはなさそうだ。だが今後の業績推移や将来見通しなどによっては、静岡県でも地銀同士の統合やM&Aが浮上するきっかけになるかも知れない。

文:M&A Online編集部