投資ファンドと組んでいったん株式を非公開し、再上場する企業が相次いでいる。インターネット調査会社のマクロミル<3730>は米ベインキャピタル系のファンドの傘下で業績を回復させ、22日に東証1部に再上場した。30日に東証に上場を予定する回転寿司チェーンのスシローグローバルホールディングス<3563>は2009年に上場廃止後、英ペルミラの傘下で経営改革を進めた。海外展開やM&Aを活用し企業価値を高める外資ファンドの経営手腕が発揮された格好だが、上場を維持したままだと大胆な経営改革に取り組みにくいという株式市場の課題も浮かび上がる。
22日に上場したマクロミルの初値は1867円。公開価格の1950円を4%下回った。ただ初値ベースでの時価総額は700億円を超えた。
マクロミルはインターネットバブル全盛期の2000年に設立された。2004年に東証マザーズに上場。05年には1部に昇格したが、その後、業績が伸び悩み、2014年にベインキャピタル系のファンドが買収し非公開化した。
非公開前の旧マクロミルの2014年6月期の売上高は213億円、純利益は20億円の赤字。これに対し、22日にマクロミルが公表した2017年6月期の業績予想では、売上高が358億円、純利益が41億円を見込む。わずか3年間で売上高は7割増、利益は約60億円も増える。
業績回復の原動力となったのはM&Aだ。マクロミルは非公開化直後の2014年10月にオランダのメトリックラボを買収。日本のみならず、グローバルに展開するマーケティング調査会社として成長する基盤をつくった。現在は世界で1000万人を超えるパネルを抱える。上場後もM&A、提携を積極的に進めて成長を加速する方針だ。
30日に上場するスシローは2017年9月期の売上高は1596億円、純利益は58億円を見込む。上場廃止前の2008年9月期の売上高は638億円、純利益は12億円だった。9年間で、売上高は2.5倍、純利益は約5倍に膨らんだ。
スシローは2007年にユニゾンキャピタルと資本業務提携し、2009年に東証2部の上場を廃止。2012年にペルミラが筆頭株主になり、国内外で出店を加速した。16年9月時点で国内442店舗、韓国にも6店を展開する。スケールメリットを生かした食材調達、セントラルキッチンを経由しない店内調理、ICチップを内蔵した皿を用いたビッグデータ分析などで運営の効率化にも取り組む。
スシローは上場後も「国内に十分な出店余地を残している」としており、今期は過去2年と同ペースの36店舗の出店を計画する。社長の水留浩一氏は戦略コンサルティング会社ローランド・ベルガ―の日本代表と日本航空の副社長も務めた人物。公開価格の3600円から計算した上場時の想定時価総額は約1000億円の大型上場となる。
両社ともファンド傘下で、新たな経営者のリーダーシップの下で改革に取り組み、業績を回復させ、海外にも展開し高成長を実現している。
日本では創業社長が新しい事業を打ち立て、ジャスダックやマザーズなどの新興市場に上場後、ある程度業績を伸ばした後、成長の壁にぶつかり、伸び悩む企業が少なくない。社長にはゼロから事業を生み出すのが得意な起業家タイプと、ある程度の基盤がある事業をさらに大きくする経営者タイプに分かれるといわれる。中にはソフトバンクの孫社長のような両方の才能を兼ね備えた経営者もいるが、そうした人物は極めて少ない。
コーポレートガバナンスがうまく機能しなければ、創業社長が力量を発揮できるピークを過ぎているのにずるずると続投させてしまい、後継経営者へのバトンタッチが遅れかねない。上場すると様々な投資家に株式が分散して所有されることになるため、成果が出なければちゅうちょなく経営者を交代させる買収ファンドのような規律が働きにくい。
マクロミル、スシローの2社の再上場は、日本でもファンドを媒介役に資本や経営者の流動化が進み、中堅企業を再成長させる事例が生まれてきたことを示す。しかし、再上場案件の場合、上場廃止前から株を持っている投資家はほぼ強制的に換金売りを迫られるため、その後の成長の果実を享受できないという課題もある。今後は上場を維持しながら、経営者がM&Aなどで大胆に経営改革に取り組み、一般投資家もこれを支えていくような市場環境をつくっていくことも重要ではないか。
文:M&A Online編集部