NATO拡大でロシア軍が太平洋シフト、北方領土の要塞化懸念も

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ロシア艦隊の太平洋シフトは加速するか?(Photo By Reuters)

トルコが反対を取り消したことで、フィンランドとスウェーデンのNATO(北大西洋条約機構)加盟が大きく前進した。NATOの「北方拡大」は日本にとっても無関係ではない。ただし「ロシアを抑え込めた」と喜んでばかりもいられないようだ。

従来通り行動できるのは太平洋艦隊だけ

2022年6月上旬にロシア太平洋艦隊がフリゲート艦やミサイル観測支援艦など40隻を超える艦船と20機の航空機を動員した演習を実施した。「ウクライナを支援する米国や日本への牽制(けんせい)」と見られているが、すでに取り沙汰されていたフィンランドとスウェーデンのNATO加盟が影響していたのかもしれない。

両国のNATO加盟でバルト海や北極海への出口を欧米陣営に抑えられるロシア海軍が、太平洋へシフトする前兆とも考えられるからだ。併せて両国のNATO加盟でロシアから見れば「寝返った」トルコが欧米との関係を深めれば、ロシア海軍は黒海でも軍事的なプレッシャーを受けることになる。

その結果、ロシア海軍がこれまで通り活動できるのは極東太平洋だけとなるのだ。今後、母港がスウェーデンと対峙するバルト艦隊やフィンランドに隣接する北方艦隊から、太平洋艦隊へ艦船を移す可能性がある。そこで重要になるのが「太平洋への出口」とな北方領土だ。

2014年のクリミア占領で欧米諸国との軍事的対立が深刻化したのを受けて、ロシア軍は択捉島と国後島で2016年に地対艦ミサイルを、2020年に長射程地対空ミサイルを配備。2021年には太平洋艦隊に「カリブル」巡航ミサイル搭載艦を4隻が初配備されるなど、北方領土での軍事的プレゼンスを強めている。

ウクライナ侵攻による欧米諸国の軍事的圧力の強化とNATOの北方拡大で主力4艦隊のうち3艦隊の行動が制約を受ける中、太平洋艦隊の増強が加速するのは間違いない。北方領土の軍備強化が進めば、返還交渉はますます難しくなる。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟は、遠く離れた日本にも大きな影響を与えそうだ。

文:M&A Online編集部

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