エヌリンクス<6578>は、NHK受信料の集金代行を主力事業とする会社です。上場は2018年4月12日、公募価格は株式分割(1:3)調整後ベースで603.3円/株、初値は同様に株式分割調整後ベースで1,260円でした。
株価は、上場後4か月ほど下落が続いたものの底入れ反転、上場後六か月弱で初値を回復しましたが、その後2018/10/18上場来高値1,078.3円をピークに再び株価は下落傾向となり、2018/12/11には公募価格割れ、2018/12/25の417.3円を底にいったん反転するも2019/1/28日の765円を天井に下落が持続し、2019/8/9には上場来安値を更新する333円となりました。
ファンダメンタルズとしては、2019/7/11に主力のNHK受信料の集金代行業務の不振とゲーム開発事業を手掛ける赤字子会社の重要性が増したことによる連結開始による業績予想の下方修正を公表、2020年2月期の通期会社予想EPSは▲23.03円と赤字予想に転落しています。
この下方修正の主要な理由として、2019年2月1日より、奨学金受給対象の学生、授業料免除対象の学生、市町村民税非課税世帯の学生及び公的扶助受給世帯の学生への放送受信料免除等が開始されたことの影響という説明がなされています。
(参考)2019/7/11適時開示「連結決算への移行に伴う2020年2月期連結業績予想及び個別業績予想の修正に関するお知らせ →リンクはこちら
このように事業が苦しい状況にある中、追い打ちをかけるように、2019年7月21日の参議院選挙の結果、NHKの受信料制度を問題視し、その廃止・スクランブル放送化を主張する「NHKから国民を守る党」が議席を獲得しました。同党の代表である立花孝志参議院議員は、7/9にエヌリンクスを名指しで批判し、「エヌリンクスを監視する」「NHK集金人になろうとする人間を根絶する」と主張する動画をYouTubeに投稿しており、外部環境が非常に厳しい状況にあります。
このような環境下では、上場企業として法定の情報開示を継続すること自体、ある意味リスクが高い状況であると考えられます。
であるとすれば、MBOによる非上場化や、非上場同業他社による買収といった形でTOBの対象となる可能性は十分にあると考えられます。
NHKの放送受信料の契約・収納業務受託法人募集のWEBサイトによれば、練武建設株式会社、株式会社WEDGEの2社がインタビューされているほか、全264社のリストが開示されています(https://www.nhk.or.jp/boshu/houjin/jigyousya/index.html)。
現在、エヌリンクスの会社予想当期純利益はマイナスのため、株式市場で最もポピュラーなPERが使用できません。このような場合には、EV/EBITDA倍率やPBRを使用しますが、通期経常利益予想が▲156百万円に対し支払利息と減価償却費を直近実績ベースで足し戻して予想EBITDAを算出すると、以下の通りマイナスとなるため、EV/EBITDAも使用できません。
そこで、PBRを算出すると、以下の通り1.8倍となります。
ここから市場が期待する利益水準とその実現可能性を考えたいと思います。
まず、「PBR(株価/純資産) = PER(株価/純利益) * ROE(純利益/純資産)」の等式を前提に、市場の期待PERをTOPIXの予想PER水準を参考に13.5倍と仮定すると、市場の期待ROEは13.32%となります。
ここから市場期待利益と会社予想利益のギャップを算出すると、以下の通り、税前利益で489百万円の改善が必要と考えられます。
では、この水準の改善がどの程度で実現可能かを予想してみましょう。
最新の四半期報告書によると、赤字セグメントと全社費用が主な赤字要因と考えられますので、赤字セグメントは撤退により赤字改善、全社費用は50%カットを想定したいと思います。
この時、改善後の予想利益とそこから算出した株価目途、その株価に至るまでの調整余地を予想すると、以下の通りとなります。
下落余地として2019/8/9終値からさらに63%が見込まれ、株価はまだ割高な状況にあると考えられます。仮に、TOBがプレミアム付きでかかるとしても、おそらくこの水準まで株価が下がってからになるのではないかと考えられます。
エヌリンクスの株価は、2019/8/9現在、2018/10/18の最高値から77%下落しており、この下落速度が維持されるならば遅くとも1年以内には株価下落目途の122円が示現することになると思われます。
貸借銘柄であればカラ売りも考えたいところですが、信用銘柄で空売りはできません。そこで、株価を注視しつつ、122円程度まで下がってきたらTOB期待でエントリーしてみる、というのも一つのシナリオとして検討に値するかと思います。
※なお、本記事に記載されている個別の銘柄・企業名については、あくまでも執筆者個人 の意見として申し述べたものであり、その銘柄又は企業の株式等の売買を推奨するもの ではありません。
文:巽 震二(フリーランス・マーケットアナリスト)