NewsPicks運営会社がTOB、ネットメディアは難しい?

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やはり、ニュースメディアのマネタイズ(収益化)は難しいのか。米投資ファンドのカーライル・グループが11月9日、経済ニュースメディア「NewsPicks」を運営するユーザベース<3966>の完全子会社化を目的にTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。TOBが成立すれば、東証グロース市場への上場が廃止となる。

「屍累々」のニュースメディア

ユーザベースは2008年に設立。2009年に企業の財務、株価や統計データを取り扱う経済情報プラットフォーム「SPEEDA」を立ち上げ、2013年には経済ニュースメディア「NewsPicks」を開設した。しかし、「NewsPicks」の有料会員数が減少、急激な円安により米ドルベースで料金が決まるAmazon Web Services(AWS)のサーバコストが高騰するなど、経営環境は厳しくなっている。

同社に限らず、ニュースメディアのマネタイズは挫折の連続だ。日本では2004年8月にライブドアが旧livedoorニュースを手掛ける報道部門を開設し、独自の取材とニュース製作をスタートした。2006年1月のライブドア事件の影響で運営会社が混乱したのを受けて、独自のニュース製作から撤退している。

2006年8月には韓国のオーマイニュースが日本でもサービスを開始したものの、2008年7月に日本法人のオーマイニュースが解散。2008年9月に体験レポートと専門家情報を掲載する「オーマイライフ」にリニューアルしたが、2009年4月には完全撤退した。

ユーザーベースは2020年11月に米国で展開するオンライン経済情報メディア「Quartz」事業からも撤退している。メディア業界では「経済ニュースは最もマネタイズしやすい」と言われているが、それでも「ニュースは無料が当たり前」というユーザー相手に独自コンテンツで収益をあげるのは難しいようだ。

黒字化できない場合は「NewsPicks」事業からの撤退懸念も

ユーザベースは、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)ベースだと2022年12月期第3四半期で1億8000万円の赤字となっている「NewsPicks」を、来期には黒字転換する方針だ。しかし、それが達成できない場合は「NewsPicks」から撤退し、「SPEEDA」やイベント・教育事業に経営資源を集中するよう求められる可能性がありそうだ。

経済ニュースはなかなか収益に結びつかないが、ビジネス関連のデータベースやイベント集客、教育、それに顧客情報は手っ取り早く「カネ」になる。発表前日の8日15時には859円だった同社株に74.6%のプレミアムを加えた1500円でTOBを実施するカーライル・グループも、そうしたメディア以外の収益性が高い事業に注目したと見られる。

短期的な収益を求めるファンド傘下だけに、ニュースメディア事業を成長軌道に載せるまでの時間的な余裕はそれほど長くはなさそうだ。

ユーザベースのM&A年表

公表日 取引総額 内 容
2016年12月16日 1億2200万円 ベンチャー企業データベース運営のジャパンベンチャーリサーチを子会社化
2018年7月2日 82億5000万円 オンライン経済情報メディアの米Quartzを子会社化
2018年10月5日 8億4000万円 Dow Jonesとの合弁を解消し、米国版「NewsPicks」会社を子会社化
2019年11月13日 5億0500万円 社内新規事業開発に特化したコンサルティング事業を手がけるアルファドライブを子会社化
2020年11月9日 非公表 米国でのオンライン経済メディア「Quartz」事業を譲渡
2022年11月9日 614億1100万円 TOBにより、米投資ファンドのカーライル・グループの子会社に

文:M&A Online編集部

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