創業家の内紛シリーズ(1)ビジネスライクな争い編

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創業家の内紛シリーズ(1)ビジネスライクな争い編

今回から3回にわたり、「創業家の内紛シリーズ」として、創業家が関係する近年の内紛を振り返ってみたい。第1回目は「ビジネスライクな争い編」としてクックパッド、出光興産、ほっともっとの3社を取り上げる。

■方向性の違いで社長交代となったクックパッド<2193>

2017年3月に開催されたクックパッドの定時総会で、前社長の穐田誉輝(あきたよしてる)氏が取締役から外れることとなり、同社の経営からは完全に手を引く形となった。

穐田氏は過去にカカクコム<2371>の社長に就任しているほか、現在はオウチーノ<6084>やみんなのウェディング<3685>の会長も務める筋金入りの経営者であり、投資家でもある。

穐田氏が料理レシピサイト運営会社であるクックパッドの社長に就任したのは2012年。同社の創業者である佐野陽光氏から「代表執行役」の座を引き継いだ形となる。社長就任後、穐田氏はM&Aによる多角化を展開、株価も上昇するなど実績を上げたものの、「食」を中心にビジネス展開することを望む佐野氏との確執を生んでしまう。

両氏が目指す方向性の違いは埋まらず、2016年3月、約44%の株式を保有する佐野氏が自身を除く取締役の交代を求める株主提案を提出。経営陣はこれを受け入れ、穐田氏は社長を退任。マッキンゼー出身の岩田林平氏が社長に昇格した。ただし、社員からの強い支持もあり、穐田氏の取締役としての地位は存続させていた。

1年後となる2017年3月、定時総会で穐田氏が取締役を退任し、以降はみんなのウェディングなどの経営に集中することになる。なお、定時総会の翌月となる4月、女優の菊川怜さんが一般男性との結婚を発表した。この一般男性とは穐田氏のことである。

■業界再編の行方に暗雲立ち込める出光興産<5019>

2017年7月18日、出光興産の公募増資による新株発行に対する差し止め請求が東京地裁に却下された。この差し止め請求は、昭和シェル石油<5002>との合併に反対する創業家が提起したものである。創業家側は地裁の決定を受けて即時抗告したものの、翌19日には東京高裁がこれを棄却した。

創業家と経営陣の確執は、2015年、月岡社長ら経営陣が昭和シェル石油との統合に向けて協議を開始したことに起因する。統合の協議は順調に進み、同年11月には合併基本合意書まで締結したものの、出光興産の株式33.92%を保有する創業家の出光昭介名誉会長は両社の企業文化の違いなどを理由にこれに反対した。

2016年6月の株主総会では、大株主である創業家が月岡社長など取締役の再任に反対票を投じる事態に発展。経営陣の交代は免れたものの、昭和シェル石油との合併は足止めを食らう。出光興産は英欄ロイヤルダッチシェルから昭和シェル石油の株式31.3%を取得するなど合併の足慣らしを進めるが、膠着した状態は続く。

そのような状態を打破するかのごとく、2017年7月、昭和シェル石油株式の取得に際して借り入れた資金の返済やベトナムでの製油事業への投資を目的として、出光興産が4800万株、金額にして約1200億円の公募増資を発表した。仮に増資が行われると、創業家の持ち株比率が33.92%から26%へと希薄化され、合併決議への拒否権の基準となる3分の1超を割ってしまう。そのため、創業家は東京地裁に新株発行の差し止め請求の仮処分申請を行ったという訳である。

会社法上、新株発行が不当なものであれば差し止め請求が認められる。裁判では、新株発行が不当であるかどうかについて「主要目的ルール」に照らして判断される。つまり、新株発行の主要目的が支配権の維持など資金調達以外にある場合には不当と判断される可能性が高い。

しかし、この一件に限っては、経営陣に軍配が上がったようだ。東京高裁が即時抗告を棄却した翌日の2017年7月20日、予定通りに新株発行は行われた。

■FC契約の難しさを垣間見せる「ほっともっと」プレナス<9945>

「ほっともっと」はプレナスが運営する弁当チェーンの商標である。同社がこの名称で店舗展開し始めたのは2008年5月のことだった。

ほっともっとの源流は、埼玉を発祥地とするほっかほっか亭である。ほっかほっか亭は別会社のほっかほっか亭総本部をFC本部として、東日本、西日本、九州の運営をそれぞれほっかほっか亭、ダイエー、太陽事務機(のちにタイヨー、プレナスと商号変更)が担う体制を構築した。

その後、ダイエーの経営不振によりハークスレイ<7561>が西日本を統括するようになり、また、ほっかほっか亭はプレナスに身売りすることで、プレナスが東日本と九州を統括することとなる。

ほっかほっか亭を吸収合併したプレナスは、ほっかほっか亭総本部に対して「ほっかほっか亭」の商標権使用料を請求するなどして、両者の関係は悪化していく。フランチャイジーであるプレナスを制御し切れなくなったフランチャイザーのほっかほっか亭総本部では、創業者がハークスレイに株式を譲渡。つまり、ハークスレイがFC本部であるほっかほっか亭総本部の親会社となった。

2008年5月、プレナスは「ほっかほっか亭」を離脱し、「ほっともっと」として店舗展開を始める。これはほっかほっか亭総本部からのFC契約更新拒絶によるものだった。しかし、契約終了後も弁当チェーンを続けているプレナスに対して、ほっかほっか亭総本部側も法的措置を取ることとなる。

長い争いの末、2012年10月、二審の東京高裁では、プレナスがFC契約終了前に「ほっともっと」へのブランド移行を宣伝した点、契約終了後に弁当販売を継続した点で契約違反があるとされた。この判決に承服しかねたプレナスは最高裁への上告に踏み切るが、この上告も棄却され、2014年3月に二審判決が確定。プレナスに対して約11億円の支払が命じられた。

なお、プレナス側も総本部によるFC契約の更新拒絶を不当とする訴訟を提起しており、2012年1月の東京地裁判決では、ほっかほっか亭総本部に対して約5億円の支払が命じられた。しかし、二審の東京高裁では、プレナス側に信頼関係を破壊する行為があったことが認定され、FC契約の更新拒絶には正当な理由があったとする判決が下された。結局、こちらの訴訟でもプレナス敗訴で終わっている。

■創業者の思惑は様々

クックパッドでは、経営方針の違いから創業者側が経営陣を追い出した格好となった。また、出光興産では、昭和シェル石油との合併に反対する創業者側と経営陣との対立がくすぶり続けている。ほっともっとの訴訟では、創業者側がすでに離脱し、プレナスVSハークスレイともとれる様相を生み出す結果となった。

創業者の思惑は様々で真相は当事者の胸の内にのみある。無用な対立を避けるためには、経営陣はコミュニケーションを密にするなどして創業者の真意を見誤らないことが大切なのだろう。

まとめ:M&A Online編集部