「マイナンバー義務化」は、財政破綻を想定した国民負担増の準備

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マイナンバーとあらゆる個人情報の紐付けが義務づけられる?(写真はイメージ)

マイナンバーカードの義務化に向けて、政府の動きが活発になってきた。河野太郎デジタル相が健康保険証や運転免許証をマイナンバーカードと統合し、健康保険証については廃止を打ち出している。しかし反発も大きく、実現にはなお紆余曲折がありそうだ。このマイナンバーだが「本丸」はカードではなく、個人の金融口座との紐(ひも)付けという。なぜか?

蘇る「財産税」

マイナンバーと銀行口座との紐付けは、2018年1月から始まっている。2015年9月に衆議院本会議で可決・成立した改正マイナンバー法に基づき、2022年3月に「公金受取口座登録制度」がスタート。10月11日からデジタル庁が「公金受取口座」の情報を他省庁や都道府県などの行政機関に提供し、自治体でも利用できるようになった。

これは給付金などの受取口座を事前に登録しておく制度。公的給付を迅速かつ確実に支給するため、預貯金口座の情報をマイナンバーとともにマイナポータルにあらかじめ登録しておき、申請の手間や給付事務の簡素化を実現する。

現在は銀行口座との紐付けは任意なので、預金者が拒否しても罰則はない。だが、今後は紐付けの義務化に向けた議論が始まると見られている。健康保険証や運転免許証とマイナンバーカードの統合は、その象徴的なイベントだ。実は国民の資産情報をマイナンバーで把握するのが最終的な狙いなのだ。

マイナンバーを個人の全金融口座と紐付けることで国や地方自治体が国民の個人資産を正確に把握し、社会保障を正確かつ公正に実施して、脱税や年金および生活保護の不正受給を防ぐ。というのは建前で、本当の狙いは財政破綻寸前の財政を救済するための布石の可能性が高い。

日本も過去に財政破綻状態に陥ったことがある。1945年8月の敗戦で、事実上破綻した国家財政を立て直す必要があった。そこで1946年11月に「財産税法」を制定。「ハイパーインフレ対策」と「富裕層からの戦時利得の没収」という建前だったが、実際には1946年3月3日午前0時において国内に在住した全個人の財産の全額、および国外在住の全個人が国内に所有した財産が対象となった。

政府はその前月に臨時財産調査令を出し、3月3日時点の金融資産を強制的に申告させている。マイナンバーと個人の全金融口座を紐付ければ、国民が申告をする必要はなく、こうした資産調査作業も短期間のうちに終わる。

預金残高を理由に社会保障の大幅縮小も

政府は預金封鎖で個人の金融資産を一時凍結。10万円(現在の約180万円)超の個人資産の25〜90%を財産税として差し引いた金額を新円に交換した。銀行に預金していない旧円は流通停止となり、文字通り「紙切れ」になった。

それだけではない。同10月に「戦時補償特別措置法」が公布され、国側が負っている債務金額と同額の「戦時補償特別措置税」が賦課される。政府のツケを被害者である国民に支払わせる、事実上の戦時補償の打ち切りだった。

1945年3月末時点で、政府債務残高はGDPの約267%に到達していた。一方、2021年の政府債務残高はGDPの約262%と、敗戦当時に近い。経済環境が全く異なるので、当時の状況と同一視はできないが、財政が危機的な状態にあるのは間違いないだろう。

国民の金融資産をすべて把握すれば、新たな負担を課すことで国家財政危機を軽減することができる。現在、個人の金融資産はや生活保護の申請時に書類でチェックされるだけだ。が、マイナンバーと紐付けできれば、年金や健康保険などでも、所得だけではなく金融資産も判断基準になる可能性がある。

例えば「預金額が1000万円超の世帯は、所得にかかわらず健康保険の負担率を5割に引き上げる」「預金額が500万円超の世帯は、所得にかかわらず介護保険による補助が認められない」と言った具合だ。

政府は「資産がある者が、相応の負担をするのは当たり前」という「正論」で押し切ろうとするのだろう。だが、国民は生活防衛や老後資金のためにコツコツ貯めてきた金融資産を根拠に、公的な福祉や支援を打ち切られることになる。

そして、いよいよ国家財政が破綻の危機に直面したら、その時は「財産税」による国民の金融資産の供出で埋め合わせることになるだろう。1946年当時と違い、個人が金融資産を日本の主権が及ばない海外へ移すことも可能だ。

マイナンバーと金融資産を紐付けておけば、そうした「資産逃亡」を未然に防ぐことができる。マイナンバーと金融資産の紐付けが法律で義務付けられる前に、金融資産を海外へ移すことも考えておくべきだろう。

文:M&A Online編集部

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