劇場版「鬼滅の刃」スポンサー28社の9割超が実施していたこと

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「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が、地上波テレビで放送された。2020年10月に公開され、同12月末までに324億7889万5850円の興行収入を記録。日本歴代興行収入1位、2020年の年間興行収入世界1位となった歴史的なヒット作品だけにテレビ放送では28社ものスポンサーがついた。その結果、本編が1時間57分なのに対してコマーシャル(CM)が43分間も入ったことが話題になっている。

「鬼滅」CMスポンサーの9割超がM&Aを実施

この28社は業種も企業規模もバラバラだが、うち26社に「共通点」がある。それはM&Aの実施歴だ。かつて「日本の企業風土ではM&Aは根づかない」と言われたが、CM料金が高い「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」のスポンサーのうち9割以上がM&Aを実施している。「M&Aを実施した企業が好業績をあげている」証拠とも言えそうだ。

では、同作のCMスポンサー企業が実施してきたM&Aの動きを見ていこう。

企業名 概要 M&Aの有無
①花王 衛生雑貨(トイレタリー)国内首位、化粧品でも大手。2006年に繊維・化粧品大手カネボウの化粧品事業を買収(カネボウの日用品・医薬品・食品事業はクラシエホールディングスが譲受)した。2016年にインクジェット用インクを手がける米コリンズインクジェット(現・花王コリンズ)、2017年にはヘアサロン向けプレミアムブランドの米オリベヘアケアを買収している。
②パナソニック 総合家電大手。オーディオビジュアル機器、白物家電が主力。2008年のリーマン・ショック以降は事業や子会社の売却が多かった。2021年4月にサプライチェーン・ソフトウエア企業の米ブルーヨンダーを71億ドル(約7800億円)で子会社化。久々の大型買収となった。
③バンダイ 玩具、模型大手。アパレルや生活用品なども手がける。親会社は2005年にバンダイとナムコが経営統合したバンダイナムコホールディングス。2019年に「機動戦士ガンダム」シリーズの版権管理をしている創通(旧・東洋エージェンシー)を約350億円でTOBし、子会社化した。
④スズキ 世界販売台数で四輪車が10位、二輪車が8位、船外機が3位。国内では軽自動車メーカーと認知されている。世界自動車市場で生き残るため1981年に米ゼネラル・モーターズ(GM)と資本提携したが、米国の自動車不況で2008年に解消。2009年には独フォルクスワーゲンと資本提携するが、経営戦略が一致せず2015年に解消している。
⑤日本臓器製薬 関西発祥の製薬会社。抗アレルギー医療薬から鎮痛剤、貧血治療剤へと取扱製品を拡大している。
⑥明治安田生命保険 大手生命保険会社。三菱グループの明治生命保険と芙蓉グループの安田生命保険が合併して発足した。2016年に米生保のスタンコープを49億9700万ドル(約6246億円=当時)で完全子会社化している。
⑦パナソニックホームズ 前身はパナソニック系の住宅総合メーカー「パナホーム」。現在の親会社はパナソニックとトヨタ自動車の合弁会社であるプライム ライフ テクノロジーズ。
⑧アクサ損害保険 CMで表示された「アクサダイレクト」はブランド名。世界最大級の保険・資産運用企業である仏アクサグループの損害保険会社。アクサの源流は1816年に創業した民間保険会社で、第二次世界大戦後に社会保障制度が充実して保険契約が激減。国内保険会社のM&Aで規模拡大して生き残った。1991年以降は海外の保険会社の買収を本格化している。

⑨アリナミン製薬 武田薬品工業の一般用医薬品・健康食品の製造・販売事業を分離独立した会社。2021年3月にブラックストーンと買収目的会社(SPC)のOscar A-Coに譲渡された。
⑩旭化成 化学、繊維、住宅、建材、エレクトロニクス、医薬品、医療などを手がける大手総合化学メーカー。戦前は日窒コンツェルンの一部だったが、戦後の財閥解体で資本関係を解消。1946年4月に日窒化学工業が旭化成工業に改名して独立した。1999年に食品事業を日本たばこ産業へ譲渡、2002年に焼酎・低アルコール飲料事業をアサヒビールとニッカウヰスキーへ譲渡するなど、「売り」のM&Aが多い。
⑪ダイハツ工業 軽自動車や総排気量1000cc以下の小型車を主力とする自動車メーカー。2016年にトヨタが株式の100%を取得し、同社の完全子会社になった。
⑫日本たばこ産業 略称「JT」。たばこや医薬品、食品・飲料を製造・販売する、JT法に基づく特殊会社。M&Aでたばこ事業をグローバル展開しており、世界シェア4位に。
⑬アニプレックス 「鬼滅の刃」を手がけるアニメ制作会社。ソニー・ミュージックエンタテインメントの子会社にして、ソニーグループの孫会社。ソニーグループの連結決算では「鬼滅の刃 無限列車編」の興行収入は、親会社の関係で「映画」事業ではなく「音楽」事業で計上された。
⑭アフラック生命保険 がん保険や医療保険が主力の生命保険会社。親会社は米アフラック・インコーポレッド。国内では2019年に保険代理店のツーサン(東京都新宿区)を買収している。一方、2018年には日本郵政が米アフラックに約2700億円を出資し、発行済み株式の7%を取得した。2022年には出資比率が20%に達し、日本郵政の持ち分法適用会社になる見通し。

⑮小林製薬 トイレタリー・医薬品メーカー。2001年に使い捨てカイロの桐灰化学を子会社化したのを皮切りに、アロエ軟膏などを生産するアロエ製薬を子会社化、米外用消炎鎮痛剤・化粧品メーカーBerlinを完全子会社化した。
⑯新生フィナンシャル CMで表示された「レイクALSA」は、同社が提供するカードローン。消費者金融と信用保証事業を手がける。消費者金融大手のレイクが発祥で、同社を買収した米GEキャピタル系のゼネラル・エレクトリック・コンシューマーローンから、2008年に新生銀行が譲り受けた。
⑰綜合警備保障 ブランド名は「アルソック」。国内第2位の警備会社。日立製作所から日立セキュリティサービス株の90%を取得して連結子会社化したのをはじめ、東武デリバリーから警備輸送事業を譲受、訪問療養マッサージのケアプラスを子会社化するなどM&Aにも積極的だ。
⑱SUBARU 国産自動車メーカー。独ポルシェと同じ水平対向エンジンを採用し、国内外でファンが多い。世界販売は100万台前後だが、ブランド力は高い。2019年にトヨタの出資比率が20%を超え、同社の持ち分法適用会社になった。
⑲アイフル 消費者金融・カードローン会社。2001年に会社更生法を申請した広島市発祥の信販会社ライフを買収。ライフの信販事業・保証事業はアイフル子会社のライフカードが引き継いでいる。2004年にはベンチャーキャピタルのAGキャピタルも買収した。
⑳ソフトバンク 国内3位の移動体通信(携帯電話)事業者。英ボーダフォンの日本での携帯電話事業を、ソフトバンクが当時国内で最高額となる1兆7500億円で買収した。前身のボーダフォンもジェイフォンを買収して日本に参入していた。
㉑第一生命保険ホールディングス 大手生命保険会社。積極的なM&Aで生保事業のグローバル展開に取り組む。2010年に豪タワー、2014年に米プロテクティブ、2018年に豪サンコープライフ、2019年に米グレートウェストの既契約ブロック、2021年8月には豪ウエストパック・ライフを買収している。
㉒SMBCコンシューマーファイナンス 大手消費者金融業者。CMで表示された「プロミス」は買収前の旧社名で、現在はサービスブランドとして使われている。2012年に三井住友フィナンシャルグループとの間で株式交換を実施し、同社の完全子会社となった。
㉓ローソン 大手コンビニエンスストアチェーン。1975年にダイエーの完全子会社「ダイエーローソン」として設立。2001年、親会社が三菱商事に。2010年にCDなど音楽ソフト販売大手のHMVジャパン(現・ローソンHMVエンタテイメント)を子会社化。2020年には資本提携したポプラの460店舗のうち、140店舗を2021年3月から6月にかけて順次「ローソン・ポプラ」か「ローソン」ブランドの店舗に転換すると発表した。
㉔ディズニー 米カリフォルニア州に本社を置く多国籍マスメディア・エンターテイメント複合企業。1995年全米テレビネットワークのABC、2006年に米アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズ氏が所有していたアニメ制作会社のピクサー、2012年に映画製作会社のルーカスフィルム、2019年には21世紀フォックスのテレビ・映画部門を買収した。2016年にはツイッターの買収を画策するも断念している。
㉕第一三共ヘルスケア 2005年に三共と第一製薬が経営統合して誕生した一般医薬品大手。アステラス製薬系のヘルスケア部門(消費者向け医薬品・薬粧品事業)が前身のゼファーマを2006年4月に買収し、完全子会社化した。
㉖ユニバーサルスタジオ 現存では米国で最も古い映画制作会社。同社の映画を題材にしたテーマパークを運営しているのは、親会社で米メディア・エンターテインメントグループのNBCユニバーサル。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは9月から「鬼滅の刃 XRライド」などのコラボイベントを実施中。NBCユニバーサルは2004年に米ゼネラル・エレクトリック(GE)と仏ヴィヴェンディ傘下のヴィヴェンディ・ユニバーサルの合併で誕生したグローバルなメディア・コングロマリット。
㉗KDDI CMで使われた「au」は移動体通信事業のブランド名。トヨタ自動車系の日本移動通信(IDO)と、京セラ傘下だった第二電電系のDDIセルラーが、2000年にKDDとの3社合併で「KDDI」となった。
㉘コナミホールディングス ゲームソフトやアミューズメント機器の製造・販売とスポーツクラブの運営などを手掛ける。2001年にピープル(現・コナミスポーツクラブ)をTOB(株式公開買い付け)で子会社化、2011年に高砂電器産業(現・コナミアミューズメント)を簡易株式交換により完全子会社化している。

「大失敗」から「売り一色」のパナが大型買収へ

パナソニックは1990年の映画制作会社米MCA(現・ユニバーサルスタジオ)を61億ドル(約7800億円=当時)で買収したが、1995年に売却して映画事業から撤退した。国内M&Aの代表的な失敗事例として知られる。

事業再編が長期化し、M&Aでは長らく「売り手」の側だったが、2021年4月にサプライチェーン・ソフトウエアの米ブルーヨンダーを71億ドル(約7800億円)で買収。M&Aによる事業の「整理統合」から「拡大」に反転するか注目される。

セガにそでにされたバンダイとナムコが経営統合

バンダイはセガとの経営統合を模索していたが、1997年に社内の反対で頓挫。一方、ナムコもセガに合併を申し入れたが2003年にパチンコ・パチスロメーカーのサミーに奪われ、セガサミーホールディングスが誕生する。そこで残されたバンダイとナムコが2005年に経営統合して発足したのがバンダイナムコホールディングスだ。2019年には「ガンプラ」など機動戦士ガンダム製品の版権を持つ創通をTOBで子会社化して話題になった。

「親会社さがし」が続くスズキ

スズキは「親会社」探しを続けている。1981年に当時は世界最大の自動車会社だった米ゼネラル・モーターズ(GM)と資本提携したが、日本車の台頭などでその頃から体力が低下し始めた。2008年にはリーマン・ショックの直撃を受け、GMの業績が悪化して両社の資本関係は解消される。GMは翌2009年6月に連邦倒産法第11章の適用を申請して倒産。2013年12月まで国有化された。

スズキは2009年12月に、トヨタ自動車と世界首位を争う独フォルクスワーゲン(VW)との間で資本提携を結ぶが、VW側の高圧的な経営干渉を受けて2011年9月に提携解消を通達する。ところがVWがこれを拒否したため、国際仲裁裁判所で争うことに。結局、同裁判所の判決で2015年8月に資本関係が解消された。

現在、スズキはトヨタとの本格的な資本提携を模索している。傘下に同じ軽自動車メーカーのダイハツを抱えていることから、トヨタのスズキへの出資比率は4.8%に留まっている。

軽自動車が主力のスズキは「頼れる親会社」を探している(同社ホームページより)

日本企業の「超大型M&A」を主導するJT

日本たばこ産業(JT)は超大型M&Aの常連だ。1995年5月に「キャメル」や「ウィンストン」などで知られる米RJRナビスコの米国外でのたばこ事業を9400億円で買収。2007年4月には英ギャラハーを純有利子負債を含めて約94億ポンド(約2兆2500億円)で完全子会社化する。

2018年8月にロシア4位のたばこメーカーであるドンスコイ・タバックを約1900億円で買収した。国内企業のM&Aとしては大型案件だが、RJRナビスコやギャラハー買収を手がけたJTだけに小ぶりに見えるから不思議だ。

不本意なTOBを仕掛けられた新生銀

米GEキャピタル系のゼネラル・エレクトリック・コンシューマーローンが投げ出した消費者金融業者のレイクを2008年に新生銀行が譲り受け、子会社化したのが新生フィナンシャルだ。低金利に加え、上場や社債などの直接金融が当たり前となり企業からの資金需要が減少したたため、貸付金利が高く利益が見込める消費者金融事業を抱える必要があった。

しかし、新生銀行の業績は好転せず、一時国有化された金融機関としては唯一、公的資金完済のめどがついていない。2021年9月にはSBIホールディングスからTOBを仕掛けられ、新生銀行はSBIが保有する同行株の保有比率を低下させる買収防衛策「ポイズンピル(毒薬条項)」の発動を発表するなど、敵対的買収に発展しそうだ。

「高い買い物」と評された買収でステップアップしたSB

ソフトバンクは旧国鉄(JR)と日産自動車などが出資していた携帯電話会社のJ-PHONE(ジェイフォン)を2001年10月に取得した英ボーダフォンから、2006年3月に1兆7500億円で買収。携帯電話事業に参入する。

ジェイフォン時代から国内3位が定着し、グローバル展開するボーダフォン傘下に入っても収益が上がっていなかったことから「高い買い物をした」との指摘もあった。だが、国内携帯電話事業者としては初めて米アップルの「iPhone」を販売したほか、若者向けの低料金プランを提供したことから業績は好転している。

持ち株会社ソフトバンクグループの設立で事業会社に移行したが、ヤフーやLINE、ZOZO、アスクル、出前館などを連結子会社とするZホールディングスを傘下に置くグループ内持ち株会社Aホールディングスの親会社でもある。

M&Aで地方の店舗網を強化するローソン

ローソンはM&Aで地方の店舗網を拡充している。2014年10月に中国・九州地方を地盤とするポプラと資本業務し、同社の発行済み株式の5%を取得した。

2015年2月には四国地方を地盤とするサニーマート(高知市)から、同社が愛媛県と徳島県に展開するコンビニエンスストア「スリーエフ」ブランドの店舗を吸収分割により譲受。同4月にはサニーマートとの合弁で「ローソン高知」を設立し、高知県内の「ローソン」店の直営店の運営を新合弁会社へ移管した。

同5月にベイシアグループで東日本でのコンビニ事業を展開するセーブオン(前橋市)から長野県内の27店舗を譲受。2016年3月末には山形、福島、茨城県内で閉店した「セーブオン」75店のうち約50店舗を譲受し、「ローソン」店に転換した。

同5月に南関東を地盤とするスリーエフ(横浜市)の直営店12店舗を譲受。さらに同9月からはスリーエフが運営する千葉県と埼玉県の87店舗を「ローソン・スリーエフ」のダブルブランド店に転換している。

同月には資本提携を結んだポプラともダブルブランド店「ローソン・ポプラ」への移行を進めるため、ポプラとの合弁でローソン山陰を設立した。ポプラとは2020年9月に「ポプラ」「生活彩家」「スリーエイト」ブランドで営業している460店舗のうち、140店舗を「ローソン・ポプラ」「ローソン」店に転換すると発表している。

ローソンが資本参加したポプラとの共同店舗「ローソン・ポプラ」(同社ホームページより)

文:M&A Online編集部

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