「ハゲタカ」の真山仁氏、次回作は「台中問題と半導体」がテーマ

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混迷する世界情勢で日本の生き残りとM&Aの可能性について講演する作家の真山仁さん

「ハゲタカ・シリーズ」で知られる経済小説家の真山仁さんが10月21日、都内で開かれたストライクとデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー(DTFA)との協業を記念したセミナー「M&A業界の近未来像イベント」で、「『ハゲタカ』著者が語るM&Aの可能性」と題して基調講演した。新型コロナ禍やウクライナ侵攻など時代の大きな変化の中で日本経済立て直しの条件とリスクテークにどう向き合うべきか、そして次回作の構想を語っている。

要旨は以下のとおり。

これからのM&Aに「楽勝」はない

新型コロナウイルス感染症の流行は、収束の方向に向かっている。しかし、コロナに伴う「非日常」が3年も続くと、それが「日常」になる。画期的なコロナ治療薬ができたとしても、それで元の生活に戻れるのか? 飲食店は平常営業に戻っている。が、先日、都心のバーに入ったら夜10時に閉店だという。かつては夜通し営業していたバーが、夜10時に閉まるのが当たり前の世界になったのだ。

ウクライナとロシアの紛争も、どこか遠くの国の戦争ではない。ロシアは日本にとっても隣国なのだ。しかも、その影響は世界に中国の台湾侵攻リスクを想起させるなど、もはやロシアとウクライナの2国間だけの問題ではなくなっている。そこを意識しないと、世界情勢を見誤ることになりかねない。

円安もインバウンド(訪日観光客)需要を喚起するだろうが、日本経済には深刻なダメージを与える。国民が円安でも大騒ぎしないのは、政府が補助金を出してガソリンの値上がりを防いでいるから。エネルギーの値上がりは、確実に国民からの反発を招く。しかし、いつまでも政府による補助金が続くわけではない。

これから冬にかけてウクライナ紛争の影響もあって、欧州を中心にエネルギー危機が起こるだろう。景気にも悪影響を及ぼし、補助金で延命していた企業の大量倒産も避けられない。ここのところ堅調に推移していたM&Aも「楽勝」ではなくなる。企業に対する目利き力とリスクを取れる会社がこれからのM&Aで成功するだろう。

「どうすれば売れるか」を考えるプロデューサーが必要

私の次回作は、先ほど触れた台中問題がテーマになる。舞台は半導体業界だ。かつて半導体市場では日本の存在感が大きかった。だが、同業界で競争力を維持しているのはシリコンウエハーやフォトレジスト(感光材)といった素材分野ぐらい。最も付加価値が高いロジック(論理演算処理)半導体は、全く歯が立たなくなっている。現在、世界の半導体市場を牛耳っているのは台湾企業だ。

かつて中国にとって台湾統一は、国のメンツを立てるのが最大の目的だった。しかし、現在では台湾の半導体産業を手中にすることで、世界を支配しようとしているのではないか。だから米国の大物政治家が相次いで台湾を訪問し、中国を牽制していると考えれば合点がいく。そのような視点の作品になる。

こうした混沌とした世界情勢の中で、日本はどうすれば良いのか?私は経済は「生き物」だと考える。日本は大企業を守ろうとする。これでは生き物のような新陳代謝が起こらず、GAFA(グーグル・アマゾン・フェイスブック・アップル)のような新しい成長企業は生まれない。そもそもスタートアップ企業を増やせば、日本版のGAFAが生まれるという発想が間違いだ。

ある時、取材した海外の経済人から「ペットのような日本企業が、弱肉強食のジャングルで生き残れると思っているのか?」と言われたことがある。政府の(過度な)保護政策を止めないと、日本経済は良くならない。日本の戦後復興は民間企業の自力によるところが大きかった。ところが今はスタートアップ企業ですら「国の支援は当たり前」と考えるようになっている。

さらに日本には、トーマス・エジソンやアップル創業者のスティーブ・ジョブズのような「プロデューサー」がいない。プロデューサーとは、すでに存在する「点」と「点」を結んで新しい事業を立ち上げる人のこと。エジソンは「発明王」と言われているが、自分で発明したのは電球ぐらいだ。ジョブズもオタクたちの小さな発明を集め、コンピューターとして世に送り出した。

プロデューサーは「どうすれば製品が売れるのか」を考える。例えば日本が生産する携帯電話は多機能だったが、「ガラケー(ガラパゴス携帯)」と呼ばれて世界市場では生き残れなかった。ところがジョブズは「iPhone」を多機能携帯電話ではなく「手のひらに乗るコンピューター」として売り出して大成功を収めた。M&Aにおいても、このようなプロデューサーの能力が必要になる。

文:M&A Online編集部

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