マツオカコーポ「アベノマスク」で51億円。一方、シャープは?

alt

政府が全戸を対象に2枚ずつ配布する「アベノマスク」納入事業者の一つ、マツオカコーポレーション<3611>が2020年5月27日、同マスクの生産で51億円の増収になったと発表した。既存の縫製設備と従業員を使って製造しているため特別の支出はなく、連結業績の上振れが見込まれるため公表した。

政府買取でリスクなしの「アベノマスク」

ただし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大が同社グループに与える影響には「未確定要因が多く、適正かつ合理的な算出が困難」として2021年3月期連結業績予想については開示を見送っている。

マツオカコーポの「アベノマスク」受注額については厚生労働省が同4月に7億6000万円と発表していたが、その後の追加受注があって51億円に膨らんだ。同社によると「利益はあまりなかった」という。生産はミャンマーと中国の自社工場で生産し、流通も自社が手がけた。同社が納入したマスクには、カビや汚れなどの不良品は確認されていないという。

マツオカコーポでは「本契約終了後の生産予定はない」としており、「アベノマスク」の納入が終了した時点でマスク事業から撤退する。「アベノマスク」は同社のほか、興和(名古屋市)や伊藤忠商事<8001>、ユースビオ(福島市)などが受注しているが、いずれも商社。残る横井定(名古屋市)はマスクメーカーで、「アベノマスク」受注に伴う追加投資は少なそうだ。

「アベノマスク」の配布率は同5月25日時点で約2割と少なく、不織布マスクが市中に出回り、繰り返し使える布製マスクの普及で市中のニーズはなくなりつつある。ただ、全量を政府が買い取る契約になっているので、納入した企業には在庫リスクはない。

「アベノ」以外のマスク参入リスクは?

では、政府の要請で「アベノマスク」ではない一般向けの不織布マスクに新規参入したシャープ<6753>はどうか?インターネット通信販売で抽選待ちの状態だが、先行きは不透明だ。すでに中国製の不織布マスクが50枚入り1000円前後で出回っており、大手メーカーの不織布マスクもドラッグストアやコンビニエンスストアに並び始めている。

ネットでの抽選販売が続くシャープ製マスク(同社ホームページより)

「日本製」に裏打ちされた機能性の高さがセールスポイントだが、政府の緊急事態宣言が解除され、消費者の間で感染に対する恐怖や危機感が薄れており、マスク着用は感染防止よりも社会的なマナーになってきた。そうなれば機能が劣っていても、価格が安いもので良いという判断になるだろう。

シャープはマスク生産に伴う業績への影響については明らかにしていない。設備投資と在庫リスクを抱える同社ではあるが、同社製不織布マスクはネット通販で発売する前に政府調達で1カ月当たり600万枚以上の買いが入っている。通販価格が税別で1枚約60円なので、同じ価格だとすれば月に3億6000万円を超える売り上げが立ったことになる。

ネット通販でも5月22日までの1カ月間で累計約22万箱、約1100万枚のマスクを販売した。これだけで約6億6000万円を売り上げたことになる。現在も抽選販売が続いており、しばらくは売り上げを伸ばせそうだ。

売上高こそマツオカコーポに比べれば小ぶりだが、設備投資については緊急発注だけに政府から相当額の補助金が交付されたはず*。マスク参入による実質的な支出は多くないだろう。一般向けの店頭販売やネット通販では価格下落が著しいマスクだが、「親方日の丸」のビジネスは手堅く仕舞えそうだ。

*政府はシャープに補助金を交付しているが、金額は明らかにしていない。

文:M&A Online編集部