【4月M&Aサマリー】3件増の73件、キリンとセガサミーが1000億円超の大型買収|イオン、いなげやを統合

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オーストラリアの健康食品メーカー最大手を買収するキリンホールディングス(東京・中野の本社)

2023年4月のM&A件数(適時開示ベース)は前年同月比3件増の73件となり、国内、海外案件とも堅調だった。1~4月累計は348件と前年同期を41件上回るハイペースで推移している。

一方、4月の取引金額は3126億円(公表分を集計)。海外企業を買収する1000億円台の大型案件が2つあったものの、これ以外に100億円超は1件(151億円)にとどまり、金額は伸び悩んだ。

小売業界では合従連衡の動きが表面化した。イオンは首都圏を地盤とする食品スーパーのいなげやを11月に子会社化することで合意した(金額は未確定)。

海外案件、回復傾向がくっきり

上場企業に義務付けられている適時開示情報のうち、経営権の異動を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Onlineが集計した。

4月は新年度のスタートにあたることから例年、出足が鈍い。それでも今年の73件は4月として過去10年で2021年83件に次ぐ2番目の高水準で、産業界のM&A意欲の旺盛さを映した形だ。

73件の内訳は買収64件、売却9件(買収側と売却側の双方が発表したケースは買収側でカウント)。このうち国境をまたぐ海外案件は15件で、日本企業が買い手のアウトバウンド取引12件、外国企業が買い手のインバウンド取引3件だった。

海外案件を1~4月累計でみると、69件(アウトバウンド42件、インバウンド27件)。前年47件(アウトバウンド25件、インバウンド22件)を22件上回り、コロナ禍で落ち込んだ海外案件の回復傾向が顕著となった。2016年(208件)以来の7年ぶりに年間200件に乗せる勢いだ。

キリン、豪健康食品大手を傘下に

金額トップはオーストラリアの健康食品メーカー最大手、ブラックモアズを買収するキリンホールディングス。1692億円を投じて、全株式を8月中に取得する。主力のビール市場が縮小に向かう中、世界的に成長が見込まれる健康領域の事業拡大につなげる。ブラックモアズはオーストラリア証券取引所上場で、サプリメントを主力とする。

ブラックモアズはオセアニアをはじめ、東南アジア、中国に販売網を持ち、近年はインドにも展開している。キリンはブラックモアズを傘下に収めて、健康領域の品ぞろえを充実するとともに、免疫維持機能をうたうキリン独自素材「プラズマ乳酸菌」を中心にアジア・太平洋地域での販売拡大を目指す。

キリンは食領域、医領域に続く柱として健康領域を育成中。2019年には化粧品・健康食品大手のファンケルに3割出資し、持ち分法適用関連会社とした。

セガサミーホールディングスは、人気モバイルゲーム「アングリーバード」で知られるフィンランドのロビオ・エンターテインメントを1049億円で買収する。セガサミーとして過去最大の買収となる。ゲーム事業のポートフォリオを強化し、グローバル化を加速するのが狙い。ロビオはナスダック・ヘルシンキ市場の上場企業で、7〜9月の買収完了を見込む。

ロビオが手がけるモバイルゲームは累計50億ダウンロードに上る。なかでも2009年に発売した「アングリーバード」は世界的大ヒットとなり、ゲーム以外にアニメ、キャラクターグッズなど幅広いジャンルでブランド展開されている。

英を舞台に、外食で久々に大型買収

外食で久々に大型のM&Aが登場した。2020年に、コロワイドが定食チェーンの大戸屋ホールディングスを敵対的TOB(株式公開買い付け)を通じて子会社化(約62億円)して以来となる。

うどん専門店「丸亀製麺」などを運営するトリドールホールディングスは投資ファンドの英キャプデシア・グループと共同で、ロンドン証券取引所上場でレストラン事業のフルハムショアを買収することを決めた。151億円で全株式を9月までに取得する。フルハムショアは英国を拠点にピザ料理、ギリシャ料理の2業態で直営97店舗を持つ。

トリドールは国内外食市場の縮小を見据え、海外進出を重点課題に掲げる。現在、「丸亀製麺」を軸にアジアを中心に世界約30カ国で約700店舗を展開するが、2028年3月期までに4000店舗に増やす計画。1000億円のM&A予算枠を設定しており、その第一弾が今回のフルハムショア買収。今後、欧米、東南アジアで買収のアクセルを踏み込む構えだ。

イオン、いなげやを子会社化

国内案件では、イオンによるいなげやの買収がハイライトとなった。11月をめどに、出資比率を現在の17.01%から51%に引き上げて、いなげやを子会社化する。そのうえで、1年後の2024年11月にイオン傘下で「マルエツ」など3つの食品スーパーを持つユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(USMH)といなげやを統合し、「関東における1兆円のスーパーマーケット構想」の実現につなげる。

いなげやは首都圏の一都三県でスーパー「いなげや」約130店舗、ドラッグストア「ウェルパーク」約140店舗を運営する。一方、USMHはマルエツ、カスミ、マックスバリュ関東の3社で設立した持ち株会社で、いなげやが加わることで売上規模はおよそ9500億円となり、1兆円に迫る。

イオンのライバル、セブン&アイ・ホールディングスでも新たな動きがあった。セブン&アイは高級衣料品・雑貨店「バーニーズニューヨーク」を運営するバーニーズジャパン(東京都千代田区)の全株式を、ラオックスホールディングスに売却することを発表(金額非公表)。免税店大手のラオックスは自社のインバウンド(訪日客)事業のノウハウと、バーニーズニューヨークの高いブランド力を活用し、国内外の富裕層の消費ニーズを取り込むという。

バーニーズジャパンは1989年に伊勢丹(現三越伊勢丹ホールディングス)が米バーニーズニューヨークとの提携により設立。セブン&アイは2015年に同社を完全子会社化したが、業績低迷から脱せず、近年は赤字が常態化していた。

◎4月M&A:金額上位(10億円以上)

文:M&A Online

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