【6月M&Aサマリー】前年比22件増の73件、キリンはミャンマー合弁の全株売却で合意

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キリンホールディングスの本社(東京・中野)

2022年6月のM&A件数(適時開示ベース)は73件と前年同月を22件上回り、過去10年で最多となった。6月は上場企業の株主総会の集中月。例年、M&Aを手控える傾向があり、1年を通じて最も件数が少ないが、今年は1月(64件)、4月(70件)をすでに超えており、これまでのパターンが崩れた格好だ。

個別案件では、かねて行方が注目されていたミャンマーのビール合弁子会社をめぐるキリンホールディングスの株式売却問題が決着の運びとなった。

上期(1~6月)累計件数は前年同期比12件増の458件。5月までは前年を下回っていたが、6月の件数急伸で2ケタのプラスに転じた。ただ、海外案件は同15件減の72件と落ち込み、国内案件が全体を牽引する姿が浮き彫りになっている。一方、取引金額は3兆68億円で、金額が張る海外案件の減少などで前年同期(5兆3936億円)を4割以上下回った。

1000億円超は5カ月ぶりにゼロ件

上場企業の適時開示情報のうち、経営権の異動を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。

6月のM&A73件の内訳は買収61件、売却12件(買収側、売却側の双方が発表したケースは買収側でカウント)。このうち海外案件は13件で、日本企業が買い手となるアウトバウンド取引が8件、外国企業が買い手となるインバウンド取引が5件だった。

6月の最近の件数推移をみると、2018年34件、19年48件、20年56件、2021年51件。「コロナ禍」初年の2020年を除き、6月の件数が年間を通じて最も少なかった。それが一転、今年は70件を超える活況となった。コロナ禍による行動制限が解除され、経済活動が正常化に向けて力強さを取り戻しつつあることが背景にあると見られる。

6月の取引金額は2939億円。1000億円を超える大型案件が5カ月ぶりにゼロ件で、月別で今年2番目の低水準にとどまった。

米国深耕へ積水ハウス、アフリカ撤退の関西ペ

こうした中、金額トップは積水ハウスの海外案件。約687億円を投じて、米国のチェスマー・グループから傘下の戸建住宅会社と金融関連サービス会社を買収する。チェスマーは全米最大の住宅市場であるテキサス州を地盤とし、2021年の引渡戸数は2082戸。

積水ハウスは2026年1月期に米国をはじめ海外市場で年間1万戸供給を目標としている。米国では2017年にウッドサイド・ホームズ(ユタ州、2021年引渡戸数2729戸)、2021年にホルト・ホームズ(オレゴン州、同695戸)を傘下に収めた。営業エリアは米西部のユタ、カリフォルニア、アリゾナ、ネバダ、オレゴン、ワシントンの各州から、今回、さらに南部のテキサス州に拡大する。

関西ペイントは南アフリカとモーリシャスにあるアフリカの塗料子会社2社を、オランダの化学大手アクゾノーベルに売却することを決めた。売却金額は約585億円。アフリカ事業から撤退し、欧州やインドなどに経営資源を振り向ける。売却完了は2023年中を見込む。

関西ペイントは2010年に南アフリカ企業を買収し、建築用塗料を中心に事業を展開。2017年にはモーリシャス企業を傘下に収め、東アフリカ地域に進出した。しかし、2010年代後半、アフリカの景気減速や通貨安などから事業環境が不安定化し、近隣の中東を含めて拠点集約などの構造改革を進めていた。

キリン、懸案のミャンマー合弁問題に決着

売却案件で注目されたのはキリンホールディングスだ。ミャンマー国軍系企業と合弁で運営するビール子会社のミャンマー・ブルワリー(MBL、ヤンゴン)の売却問題が決着することになった。昨年2月に起きた国軍によるクーデターを受け、早期の合弁解消とミャンマー撤退を模索してきたが、合弁会社側がキリンから自社株を買い取る形で最終的に合意した。売却金額は約224億円。売却時期は未定だが、早期実現を目指す。

MBLはミャンマー最大手のビール会社で、キリンは2015年に約700億円で子会社化した。出資構成はキリン側51%、国軍系企業49%。

第三者への株式売却はミャンマー政府など当局の承認が必要になるほか、会社清算の場合、現地従業員や取引先への影響が大きいことから、合弁会社への株式売却が最適な手段と判断した。

ビール会社としてはもう一つ、大型案件があった。サッポロホールディングスは米国のクラフトビールメーカー、ストーン・ブリューイング(カリフォルニア州)の全持ち分を約227億円で取得し、子会社化すると発表した。生産拠点の確保と新ブランドの獲得で米国でのビール事業を拡大する。

東洋建設TOB、協議継続へ

任天堂創業家の資産運用会社「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス」(東京都港区)が海洋土木大手の東洋建設に対して6月下旬をめどにTOB(株式公開買い付け)を始めると「予告」していた一件は、ひとまず“水入り”となった。

東洋建設は株主総会前日の6月23日、大規模買付行為に対する対応方針にかかる議案を取り下げた。対応方針はヤマウチ側を念頭に置いた事実上の買収防衛策だったが、東洋建設は一転、買収防衛策を廃止したうえで、ヤマウチ側と協議を続けることになった。これらを受け、ヤマウチ側はTOBの開始時期について、東洋建設経営陣の同意を得たうえで9月下旬をめどとする方針を明らかにしている。

国内の砂糖市場が縮小する中、日新製糖と伊藤忠商事傘下の伊藤忠製糖(愛知県碧南市)は2023年1月に経営統合することで合意した。売上高規模は単純合計で約760億円。業界最大手のDM三井製糖ホールディングスとは2倍近く開きがあるものの、追撃体制がひとまず整う。

日新製糖は「カップ印」ブランドで知られ、国内小売市場で約26%のシェアを持つ。同社は2011年に新光製糖(ジャスダック上場)と経営統合しており、今回、再び再編劇の主役を務める。

◎6月M&A:金額上位(10億円以上)

1 積水ハウス 米国の戸建住宅会社チェスマー・グループを子会社化 687億円
2 関西ペイント アフリカの塗料子会社2社をオランダ化学大手アクゾノーベルに譲渡 585億円
3 浜松ホトニクス レーザー装置・部品製造のデンマークNKT Photonicsを子会社化 295億円
4 伊藤忠商事 大建工業との住宅構造材製造の米国合弁会社PWTに追加出資し子会社化 240億円
5 サッポロホールディングス クラフトビールメーカーの米国ストーン・ブリューイングを子会社化 227億円
6 キリンホールディングス ミャンマーのビール合弁子会社・ミャンマー・ブルワリー(MBL)の全保有株51%をMBLに譲渡(MBLが自己株式取得) 224億円
7 米コーンウォール 無線通信機器メーカーのユニデンホールディングスをTOBで非公開化 195億円
8 ディー・エヌ・エー レセプト(診療報酬明細書)データ分析のデータホライゾンをTOBと第三者割当増資引き受けで子会社化 103億円
9 パイプドHD 株式の非公開化に向けてMBOを再実施 95.8億円
10 H.U.グループホールディングス ベルギーのバイオテクノロジー企業ADxを子会社化 57.3億円
11 ケイブ スマホゲーム開発のでらゲー(東京都渋谷区)を子会社化 50.2億円
12 丸和運輸機関 物流業のM・Kロジ(福岡県宇美町)を子会社化 41.4億円
13 フェローテックホールディングス センサーメーカーの大泉製作所をTOBなどで子会社化 27.6億円
14 新日本科学 非臨床試験のイナリサーチをTOBで子会社化 26.9億円
15 フェローテックホールディングス 工業用刃物・カッター製造の東洋刃物をTOBで子会社化 21.5億円
16 バルカー フッ素樹脂製品製造の中国子会社を現地社に譲渡 13.6億円
17 ブレインパッド ITマーケティングサービスのTimeTechnologies(東京都千代田区)を子会社化 10.5億円

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文:M&A Online編集部