想定外の電撃内閣改造で、自民党の「派閥M&A」が始まる

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自民党内も「寝耳に水」。岸田文雄首相が8月10日、内閣改造に踏み切る。公になったのは5日。わずか5日で内閣を改造する背景には、岸田政権の長期化に向けた権力固めの動きがある。そのための手段が「安倍派(清和政策研究会)の排除」と「派閥M&A」だ。内閣改造はその「仕掛け」と言える。

旧統一教会問題が岸田派の「追い風」に

与党内で9月上旬とされてきた内閣改造が1カ月も早まった理由は、「旧統一教会(世界平和統一家庭連合)問題」だ。連日の報道や世論の激しい反発に素早く対処するという「公式見解」はあるが、実態は党内最大派閥の安倍派を抑え込む絶好の機会だからだ。

旧統一教会は安倍晋三元首相の祖父である岸信介元首相の時代から関係が深く、選挙運動にも関わってきた。その流れで自民党内でも安倍派幹部が同教会と関係を持つケースが多かった。

6日の記者会見で岸田首相は内閣改造に当たって「団体との関係を点検し、結果を明らかした上で適正な形に見直すこと指示する」と、統一教会と関係があった議員の登用排除を宣言した。事実上の「安倍派排除宣言」だ。

党4役でも安倍元首相に近く旧統一教会の関連団体に祝電を送っていた高市早苗政調会長や、記者会見で旧統一教会と政治家との関係について「何が問題か正直分からない」と話した安倍派の福田達夫総務会長は交代が取り沙汰されている。

「大宏池会」再編に絶好のチャンス到来

旧統一教会問題に加えて、安倍元首相後継の派閥トップが決まっていないため、派閥として岸田首相に圧力をかけるのもままならない。最大派閥である安倍派の影響力を削ぐには、最適のタイミングと言えるだろう。

同時に「派閥M&A」の構図も透けて見える。現在、総裁派閥の岸田派は43人、安倍派の97人、茂木派(平成研究会)の54人、麻生派の50人に次ぐ党内第4位で党内の権力基盤は盤石ではない。

そこで浮上しているのが、岸田派(宏池会)、麻生派(志公会)、谷垣グループ(有隣会)を統合する「大宏池会」構想だ。派閥トップの死去により、安倍派からの切り崩しやプレッシャーの懸念がなくなった今が派閥M&Aの好機なのだ。

岸田首相は早々に麻生太郎副総裁の留任を決定し、「大宏池会」への布石を打った。さらに吉田茂派を起源とし、大宏池会と共に「保守本流」派閥である茂木派の茂木敏充幹事長の留任も決め、岸田政権に冷ややかだった安倍派の包囲網を築きつつある。

一方、後継者未定のままトップを失った安倍派は、分裂や切り崩しのリスクが高まっている。安倍派でも萩生田光一経済産業相は留任も含め要職起用される見通しで、閣僚盗用から外れた安倍派幹部との「不協和音」が懸念される。大宏池会のみならず、安倍派をも巻き込んだ自民党内の「大再編」が起こる可能性がありそうだ。

文:M&A Online編集部

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