ヤフー<4689>が、レシピ動画「クラシル」を運営するdelyを子会社化しました。ヤフー傘下のYJキャピタルがすでに投資を行っていましたが、新たに93億円を出資。「gumi ventures(gumi系)」や「Pegasus Wings Group(AnyPay創業者・木村新司氏のファンド)」などの既存株主から、株式を買い取りました。これにより、15.9%だった所有割合を45.6%にまで引き上げています。ヤフーはdelyに役員を派遣し、営業利益を決算に取り込むこととなります。ヤフーがdelyを取り込んだ理由は2つあります。

動画レシピは国内のスタートアップ界隈では有名な事業領域です。「クラシル」のdelyと「デリッシュキッチン」のエブリーが激しく争う構図(KDDIに買収されたエブリーの記事はこちら)。その過熱ぶりは資金調達額の大きさを見るとわかります。下の図はスタートアップのデータベース「entrepedia」がまとめた、2017年の国内資金調達状況。delyが5位の63.6億円、エブリーが7位の47.6億円です。
投資家や市場から期待はされているものの、業績がついてきていません。delyはこんな感じ。
| 売上高 | 営業損益 | |
| 2017年10月期 | 2億8900万円 | △30億6700万円 |
| 2016年10月期 | 2400万円 | △1億5000万円 |
| 2015年10月期 | 700万円 | △3億円 |
※ヤフー「dely 株式会社の連結子会社化に関するお知らせ」より
「デリッシュキッチン」のエブリーも、直近の決算では23億円の赤字を計上しています。資金調達額からみて期待は大きい。その一方で、業績は悪い。それはなぜなのか。そしてそこから、ヤフーがどのような未来を描いているのかが見えてきます。
dely代表の堀江裕介氏はスタートアップでは有名な経営者。1992年生まれで、慶応大学在学中の2014年に起業。2016年にクラシルをスタートしました。リリースから2年で1000万ダウンロードを突破。2018年6月の時点で1200万ダウンロードを超えています。FacebookやTwitterが2000万なので、比較するとそのスピードの速さがわかります。ユーザーの獲得と資金調達が上手くいきはじめると、「20代で1000億円の企業価値創造したい」などと発言し、起業家のタマゴたちからもてはやされたりもしました。
クラシルがユーザーに深く浸透した背景には、アプリを中心に据えたdelyの戦略がありました。従来のメディア運用は大きく2つに分かれます。1つ目がSEOを軸としたもの。もう1つがバイラルメディアです。SEOはGoogleなどの検索エンジンに最適化したサイトを作りこみ、ユーザーの検索意図を見越したコンテンツをバラまいて誘い込もうというもの。クックパッドがまさにこれでした。グルメサイトの「ぐるなび」などもこの部類に入ります。先行した企業に強みのあるモデルとなります。
バイラルメディアはSNSを活動の中心にしたもの。SEOは大量のコンテンツが必要となり、成果を出すまでに時間がかかります。バイラルメディアはSNSの拡散力を利用して、最小限の力でユーザーを引き寄せようとするものです。「目から鱗が落ちる豆知識」や「渾身の一発ギャグ」を投稿し、”いいね”や”リツイート”などによるバラまき効果を利用するのです。それをフックとして、運営しているメディアへとユーザーを誘い込むのがこのモデルとなります。
当初、delyはバイラル寄りの運用をしていました。動画をSNSで拡散させる「分散型メディア」といわれるものです。同社はそこから一歩進んで、ユーザーを囲い込むためのアプリへと注力したのです。なぜなら、SEOもバイラルメディアもユーザーをメディアに誘い込むという点では同じですが、離脱するという問題点はどうすることもできないからです。アプリはそれを解決する手段として極めて有効でした。
当然、アプリをダウンロードをさせるのは、メディアの閲覧よりも難易度は高い。しかしdelyは調達した資金で動画コンテンツに磨きをかけ、SNSなどを中心としてユーザーの心をつかんだのです。ファンが醸成され、ダウンロード数を伸ばしました。投資家が期待をかけたのは、ダウンロードという壁を打ち破って次々とハートをつかむ、delyの巧みな戦略でした。

クラシルの最大の特徴はコンテンツの質の高さにあります。月間1000本以上の動画を作成しながら、SNSで目を引くほどの質を担保しているのです。しかしながら、ここに弱点がありました。アプリである点と、コンテンツにこだわりすぎている点です。クラシルは誰でも見られるメディアではなくアプリです。従って、純広告を出稿しすぎるとユーザー満足度が著しく低下する恐れがあります(うざいという感覚です)。必然的に企業とのタイアップ広告をメインとせざるを得ません。タイアップ広告はクックパッドほどの企業でも売上高で20億円程度。面倒で時間のかかるこの手の広告は、クライアント企業から敬遠される傾向にあります。
収入がそれほどないにも関わらず、コンテンツ作成に力を入れているので、当然人件費などの固定費が発生します。それが利益を押し下げている最大の要因です。アプリであるが故に手抜きができず、思うように広告出稿ができないというジレンマに陥ってしまいました。
そうなると、次はユーザーからの課金へと目が向きます。クラシルは月々480円で人気レシピのランキング検索ができるサービスを提供しています。しかし、有料会員の推移を公表しておらず、一般ユーザーに比べて伸び悩んでいると予想されます。
ヤフーがdelyを子会社化して今後注力するとみられるのは、ライブコマース事業。ライブコマースとはライブ動画を見ながら、売り手側と買い手側がリアルタイムでコミュニケーションをとり、購買へと導く手法。Youtuberやインスタグラマーなどの有名人と会話をしながら商品を選ぶことで、購買意欲が高まりそうです。
ヤフーは2017年11月からアプリを通じて商品紹介と販売が可能な「Yahoo!ショッピングLIVE」をリリース。ユーザーとストアをリアルタイムでつなぐインフラを整えました。3000ストアに導入したものの、あまり盛り上がっている様子はありません。同社はクラシルを促進剤として、成長を加速させるつもりのようです。
ヤフーの2017年度ショッピング事業売上高は前年度比31%増の6276億円。堅調に推移している一方、オークション関連取扱高は5%増の9000億円とほぼ横ばい。メルカリなどに市場を奪われて伸びしろがなくなっています。ライブコマースをユーザーとストアに浸透させ、新たな価値提供をする必要があるのです。
ヤフーは広告事業も鈍化しています。2017年度の売上は前年度比6%増の3034億円。検索連動型、ディスプレイ広告とは別のプラットフォームが必要になってきます。その点、アプリは新たな出稿先として期待が持てそう。
delyはヤフーの傘下に入ったことで、じっくり腰を据えて本来の事業に向き合えるはず。どのようにして事業を発展させるのか、期待したいところです。
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