韓国、フッ化水素「輸入0」でも屈せず-日本企業が外交の犠牲に

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日本政府が韓国向けの輸出規制を強化している半導体・ディスプレーパネル生産に必須の素材3品目のうち、フッ化水素の日本からの輸入が2019年8月に「0」になったことが、9月16日に発表された韓国関税庁の輸出入統計で分かった。日本政府は8月30日にサムスン向けのフッ化水素に輸出許可を出しており、9月に韓国への輸入がどの程度回復するかが注目される。

「強く出れば折れる」はずが…

「基幹産業に欠かせない素材の輸入が滞れば、韓国は徴用工問題で必ず折れる」という日本政府の想定は外れた。輸出規制が強化される以前、韓国は半導体やディスプレー生産に必要な高純度フッ化水素のうち、90%超に当たる月平均3000トンを日本から調達していた。韓国は日本製フッ化水素の輸入に「待った」がかかったことで、他国からの輸入や国内での精製に乗り出している

9月上旬には韓国のソルブレインとENFテクノロジーの2社が中国から輸入した無水フッ化水素酸を純度99.999%の高純度フッ化水素液に加工し、サムスン電子に納入した。SKの子会社であるSKマテリアルズも8月に「IT素材ソリューションプラットフォーム」を立ち上げ、高純度フッ化水素の量産に向けた設備投資を進めている。

SKハイニックスはグループをあげて「脱・日本製品」に乗り出している(同社ホームページより)

半導体ウエハーを手がけるSKシルトロンも9月10日、米化学大手デュポンのシリコンカーバイドウエハー事業を買収した。半導体ウエハー市場で日本企業が過半数のシェアを押さえていることから、輸出規制が拡大する前に内製化に向けて手を打った形だ。

日本が高いシェアを持つフォトレジストをはじめとする素材や、ウエハー用高精密度プローブステーションなどの生産装置についても、韓国政府の研究機関と生産装置メーカーが連携して内製化を進めている。

日本企業を見切り、自国サプライヤーに「急接近」

これまでこうした半導体やディスプレー向けの素材や生産装置は、韓国の素材・装置メーカーが「サムスンやLGエレクトロニクスといったグローバルメーカーは、日本企業重視で韓国サプライヤーなど相手にもしない」と不満を漏らすほど「日本一辺倒」だった。ところが現在、状況は一転して「内製化」一色に染まっている。

結局は日本の素材・装置メーカーが、自国の「輸出規制強化」のあおりを受けてビジネスチャンスを失うことになりそうだ。しかも、その「火種」は領土問題や貿易摩擦といった国家や国民に実害を及ぼすものではなく、歴史認識問題だけに「勝利して得るもの」はほとんどない。半面、「膠着(こうちゃく)して失うもの」は大きくなりそうだ。

さらには韓国政府も「GSOMIA(日韓秘密軍事情報保護協定)の破棄」という日本政府にとっては手痛い反撃をするなど、圧力に屈する気配はない。日本政府は「東アジアの平和と安定を損なうだけに、米国が韓国に対してGSOMIA延長を強く求めるはずだ」と期待したが、ふたを開けてみれば「日韓のことは両国でよく話し合え」と米国政府にも突き放された。日本外交にとっては「想定外」の事態が続き、打つ手なしの状況だ。

朝鮮半島に対する日本の外交方針は「日本が強く出れば、必ず相手は妥協してくる」という楽観論に基づく「力押し」一本槍で、相手国が強硬に対抗した場合の対応を想定していないようにみえる。事実、ミサイル・拉致問題では北朝鮮から何ら歩み寄りはなく、現在となっては朝鮮半島の和平プロセスに関与できるかどうかも不透明な状況だ。

従軍慰安婦像問題でも、2017年1月に駐韓大使と釜山総領事を帰国させる強硬策に打って出た。が、結局は事態に何の進展もないまま、同4月に2人を復帰させた。外交上の「敗北」である。

今回の輸出規制強化は日本政府の外交失策が、日本経済に大きなマイナスをもたらすことを浮き彫りにした。事に成り行き次第では、今まさに日本の半導体・ディスプレー向け素材・装置メーカーが直面している「危機」が、他業種にも広がることになりかねない。

日本外交の失敗が国内素材・装置メーカーから「最重要顧客」を奪うはめに…(サムスン電子ホームページより)

文:M&A Online編集部