大量保有報告書は株式等保有割合が5%を超えた場合に提出が求められる書類です。そのため、M&Aが行われる場面や資産運用会社が日本企業株を買い増している場面などで登場する用語でもあります。今回はこの大量保有に関する開示制度について概要を確認してみることにしましょう。
M&A Onlineの「大量保有 報告書データベース」では大量保有報告書を検索することができます。このデータベースの検索条件で2018年1月1日から12月31日を指定すると、1万2321件がヒットします。なお、この件数は過去10年間で最高の件数だそうです(参考:「「大量保有 報告書」提出件数が過去10年間で最高に」)。
これらの報告書の中には「種別」欄が「変更」となっているものが多く含まれています。「変更」となっているものは、株券等保有割合が1%以上増減した場合などに提出が求められる「変更報告書」です。
そのため、株式等保有割合がはじめて5%を超えた場合に提出される純粋な意味での大量保有報告書を閲覧したい場合には、「種別」欄が「新規」となっているものを探すと良いでしょう。
大量保有報告書では保有者の概要、株券等保有割合、保有する株券等の内訳、保有目的など所定の項目が開示されます。これらの開示は金融商品取引法27条の23や関連する内閣府令にもとづくものであり「株券等の大量保有の状況等に関する開示制度」あるいは「5%ルール」とも呼ばれています。
保有者が報告しなければならない株券等は金融商品取引所に上場する会社が発行したものです。ただし、その範囲には普通の株式だけでなく、新株予約権、対象有価証券カバードワラント、株券預託証券、株券信託受益証券、対象有価証券償還社債、他社株等転換株券などが含まれます。
上記でも少し触れたように、大量保有報告書を提出した後に株券等保有割合が1%以上増減した場合や重要な事項の変更として政令で定められているものが発生した場合には変更報告書の提出が求められます。これらの大量保有報告書および変更報告書の提出期限は報告義務発生日の翌日から5日以内となっています。
大量保有報告の制度は、上場会社の株式などが大量に買い集められる場面などを想定し、市場の公平性や透明性を高め、投資者保護を徹底する必要性があることから平成2年に導入されたものです。つまり、投資者の判断に重要な影響を及ぼす事項を適時に開示することが目的といえます。
ただし、実際には投資者が利用するだけでなく、株式を発行している企業自体が自社に対する敵対的な買収が行われていないか監視したり、自社に対してガバナンス改善などを求める「株主アクティビズム」の動向を捕捉したりする手段にもなっています。
株券等保有割合が減少したことによって変更報告書を提出する場合で、特に短期間に大量の株券等を譲渡したとされる一定の基準に該当する場合には、原則として「譲渡の相手方及び対価に関する事項」を記載した変更報告書を提出することになっています。こうした事項も株式を発行している企業にとって重要な情報源といえるでしょう。
なお、過去に提出した大量保有報告書あるいは変更報告書を訂正する場合には「訂正報告書」の提出が必要になります。
以上のように、大量保有報告書は投資者サイドにとっても、株式を保有される企業サイドにとってもセンシティブな情報を含むものです。適切に運用されることはもちろん、開示までのタイムラグなども含め、各利害関係者にとって公正かつ公平な制度であって欲しいものです。
文:北川ワタル