【KDDI】M&Aからベンチャーへのスイッチ投資

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M&Aを繰り返し現事業体制を確立したKDDI

 KDDI<9433>は、2000年代の現体制を整えるまでのM&A期と、それ以降のベンチャー投資期に分けて捉えることができる。

 もともと、同社は、00年に第二電電(DDI)、ケイディディ (KDD) 、日本移動通信 (IDO) がDDIを存続会社として合併して発足し、02年に現社名へ変更をした企業である。当時、DDIは京セラ、KDDおよびIDOはトヨタ自動車と資本関係があったため、合併は、3社の主な株主であった京セラとトヨタ自動車の包括的な事業提携により実現したものであった。

 さらに、01年には、JASDAQに上場をしていた沖縄セルラー電話を除く、旧・DDIセルラー系携帯電話会社、05年にはツーカー各社を、06年には、業務提携相手の東京電力子会社である電力系通信事業者パワードコムを吸収合併して今日に至っている。

2012年以降は30社に対し投資-出資先は次々上場へ

 これら通信系のM&Aを行う一方で、12年のコーポレート・ベンチャー・ファンドの立ち上げ以降は、ベンチャー企業30社以上に対して投資を積極的に行ってきた。

 その投資先のうち、無料インターネット電話サービスのSkype(スカイプ)を利用したオンライン英会話教室を運営するレアジョブは、投資から1年後の14年に東証マザーズへの上場を果たした。また、スマートフォンのGPS機能を利用した位置連動型のプッシュ通知によるASP事業を展開するアイリッジも15年7月に東証マザーズへの上場を果たしている。

 このようにコーポレート・ベンチャー・ファンドを通して、KDDIの持つ資金を含めた経営資源を活用するモデルは、今後社会的な流れとしてより一層加速するものとみられる。

 出資先が上場を果たす一方で、KDDIはファンドの出資先を子会社化する動きも取っている。

 例えば、生活全般を取り扱う情報サイトおよび企業であるnanapi(ナナピ)を14年に子会社化している。ここ数年間でこういった情報サイトやキュレーションメディアは新たな情報媒体、広告媒体として注目を集めており、KDDIの経営資源を本格的に投入し、マーケットシェアを拡大することを企図している。

 一方、KDDIもnanapiとの取り組みによって、ポップカルチャーに特化したウェブメディアを運営する子会社ナタリーやグノシーといった出資先との間で相互送客を行ったり、共同で広告事業に取り組むことによって、KDDIグループ全体の経営資源の効率的な投下ができるメリットもある。

 大企業は得てして新たな取り組みを行うことを不得意としているが、このようにイノベーションが求められる新規事業をM&Aによって補完する動きは、近年のトレンドとなっている。その最たる例がKDDIであり、同社の持つ経営資源とのシナジーによってM&Aを成功に導いている。

■KDDIが行った主なM&A

年月 内容
200.10 DDI、KDD、IDOが合併、ディーディーアイ (KDDI) 発足
2000.11 セルラーグループ7社が合併、エーユー発足
2001.10 エーユーを吸収合併
2004.10 子会社のDDIポケットのPHS事業(売上高1840億円)をカーライル・グループに2200億円にて売却
2005.10 ツーカーセルラー東京、ツーカーセルラー東海、ツーカーホン関西を吸収合併
2006.1 東京電力の子会社で通信事業者のパワードコム(売上高1175億円)を株式交換により2億円にて買収
2007.6 212億円を投じてジャパンケーブルネット(売上高246億円)の出資比率を42%から71%へ引き上げ、子会社化
2008.4 中部電力の完全子会社である中部テレコミュニケーション(売上高402億円)を379億円にて買収(80%)
2010.2 ジュピターテレコム(売上高2943億円)に3617億円を出資、37%を取得して持分法適用会社化
2012.2 運用総額50億円のコーポレート・ベンチャー・ファンドを設立
2013.2 英国のベンチャーでスマートフォンを利用したタクシー配車サービスを提供するHailo Network Holdingsへファンドを通じて出資
2013.6 Skypeを利用したオンライン英会話事業を行うレアジョブへファンドを通じて出資
2013.7 日本最大級のライフ・ハウツーサイト「nanapi」を運営するnanapiへファンドを通じて出資
2013.10 セレクト・アウトレット型ECサイト「LUXA(ルクサ)」を運営するルクサへファンドを通じて3億3000万円を出資
2013.10 スマートフォン向け020ソリューションを提供するアイリッジへファンドを通じて出資
2014.5 ファンドの出資先であるレアジョブが東証マザーズへ上場
2014.6 ハンドメイドマーケットプレイス「Creema(クリーマ)」を運営するクリーマへファンドを通じて出資
2014.10 ファンドの出資先であるnanapiを買収。一部報道では買収価額は、40億円とも伝えられている
2015.4 ファンドの出資先であるルクサを買収
2015.7 ファンドの出資先であるアイリッジが東証マザーズへ上場

KDDIの財務状況と従業員の推移

 次に、売上高構成比率と従業員構成比率の変化について考察を行う。2001年のKDDI発足当初と15年現在では、事業ポートフォリオが大きく変化していることが分かる。

 セグメントの見直しを実施しているため、01年と15年での単純な比較は難しいが、セルラーグループの合併やジュピターテレコム買収などの大型M&Aによって、主要事業である個人客向けソリューションが大幅に強化されている。単純な売上高の積み増しもさることながら、少ない人的資源によって効率的な営業活動が実を結んでいることが推察される。01年に1人当たりの売上高が2億8000万円であるのに対し、15年には2億4000万円となっており、同指標においては経営効率が悪くなっているが、同業他社の同種セグメントと比較しても1人当たりの売上高が1億円近く高いため、営業的効率性が高いことが分かる。

 また、東京電力や中部電力からの通信事業の買収を通じて、法人向けのソリューションや海外向けのサービスについても強化を図っており、人的資源も投入し、着実に売り上げを確保している。

 このような大型のM&Aが行われているものの、KDDIの財務状況は非常に安定しており、自己資本比率も高い水準を維持している。

■総資産総額の推移


 06年3月期まではグループの再編に注力し、体制づくりを実施していた関係で、総資産額が減少傾向にあったものと見られる。06年3月期以降も大型M&A案件は1年に1度のペースで取り組んでいるが、毎年資産の蓄積を行うことができており、自己資本比率も50%台を10年間維持している。その裏では、モバイル・通信市場の拡大の予測を基にM&Aに取り組むマクロな視点があったのではないだろうか。

 のれんも無理のない範囲で償却されており、直近でも営業利益に対して4%と、損益への影響も軽微なものとなっている。また、のれんの残高は減少傾向にあり、総資産に占める割合も1%を切っている。これらのことからも綿密な計画に基づいた買収金額の設定を行ってきたことがうかがえる。

■のれんの推移

 一方で、10年代から積極的に取り組んでいるベンチャー投資については、将来的にKDDIの売り上げに貢献する存在となっていくと予測できる。特に、単体での売り上げも期待できるが、「au」ブランド強化の一環として活用している面が強いのではないだろうか。売上高の70%以上を占める個人向けソリューションを今後もKDDIの要として機能させる上では、他社との差別化は非常に重要となってくる。NTTドコモやソフトバンクも積極的に投資に向かっている状況を鑑みると、このベンチャー投資のトレンドは、しばらく続くことになるであろう。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

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