ジャニーズ事務所性加害報告書は、同族企業にとって「他山の石」

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同族経営によるガバナンス不全で批判の「集中砲火」に(写真はイメージ)

ジャニーズ事務所が29日に公表した「外部専門家による再犯防止特別チーム」の調査報告書は、社会に大きな衝撃を与えた。児童に対する性加害が生々しく伝えられ、事務所の隠蔽(いんぺい)体質を明らかにした内容だ。しかし、同報告書は単なるスキャンダル・レポートではない。わが国企業の9割を超えると言われている同族企業が陥りやすい問題点を浮き彫りにし、それらを回避するための「指南書」でもある。企業は同報告書から何を学ぶべきなのか?

同族経営が陥りやすい「罠」

同報告書で一般企業の参考になるのは「本事案の背景」だ。

(1) 同族経営の弊害
(2) ジャニーズ Jr.に対するずさんな管理体制
(3) ガバナンスの脆弱性
 ① 取締役会の機能不全と取締役の監視・監督義務の懈怠
 ② 内部監査部門の不存在
 ③ 基本的な社内規程の欠如
 ④ 内部通報制度の不十分さ
 ⑤ ハラスメントに関する不十分な研修
(4) マスメディアの沈黙

(1) 同族経営の弊害については、創業家の支配力が強力で、周囲が異論を挟(さしはさ)みにくい状況を指摘している。これはジャニーズ事務所に限らず、上場企業から中小零細企業に至るまで同様の事情にあると言っていい。とりわけ当該企業において起業だけでなく、業績を伸ばすなどの経営手腕を発揮すれば、なおさら神格化され、同族経営が強固なものとなる。

中小零細企業に限らず、オーナー経営者に他の取締役や社員が何ら異議申し立てできない企業は少なくない。オーナー経営者が一旦暴走を始めたら、誰も止められなくなる。とりわけ大手企業であれば、その影響は計り知れない。

(2) ジャニーズ Jr.に対するずさんな管理体制については、オーナー経営者が人事権を独占することの弊害を指摘している。ジャニーズ事務所の場合は、タレント候補となるジャニーズ Jr.の採用とデビュー(一般企業では昇格に当たる)を、創業者でオーナーであるジャニー喜多川氏が一手に握っていた。

これが性加害につながる土壌となったわけだが、オーナー企業でも中小企業では採用から昇格まで、上場企業でも幹部人事にオーナー経営者の意向が強く働くケースも珍しくない。いわゆるオーナー経営者の「お気に入り人事」である。

性加害につながらなくても、適切な人選が実行できないため、人事のミスマッチにより組織の統制や運営で問題が生じかねない。ニデック(旧日本電産)やファーストリテイリング、ソフトバンクグループなど、社長候補が何人も現れては消えていくオーナー企業は、こうした問題が生じている可能性が高そうだ。

大手企業でも「人の支配」のガバナンスに

(3) ガバナンスの脆弱性については、付け加えることは何もないだろう。オーナー企業の場合は、事実上経営者が全ての最終決裁権を持つ「人の支配」であり、「ルールによる支配」はないがしろにされがちだ。厳密な社内ルールが定められていても、オーナー経営者が容易にひっくり返せるようであれば、ガバナンスは極めて脆弱になる。

社内ルールの恣意的な変更は、同族経営の大企業でも起こりうる。例えばトヨタ自動車では創業家出身の豊田章男前社長の報酬が9億9900万円と前期実績を3億円以上も上回ったが、内規によると利益や株式の時価総額が下がったことから引き下げられることになっていた。しかし、同社がこの内規を変更して大幅増額した事例がある。

(4)マスメディアの沈黙については、そもそも中小零細企業ではニュースバリューがないため、オーナー企業の弊害が伝えられることはない。大企業であっても業績が好調な場合、ガバナンス不全が生じていてもその弊害が取り上げられることはほとんどない。

ただ、大企業では業績の急激な悪化や、明らかな法律違反が生じた場合は批判的に大きく報じられる。大手スーパーのダイエーや総合家電の三洋電機で同族経営の批判報道が本格的に始まったのは、経営破綻の直前になってからだった。ビッグモーターの同族経営批判も、損害保険の不正請求が明らかになってからである。

逆の見方をすれば、もっと早い段階で同族経営によるガバナンス批判の報道がなされていれば、経営危機を迎える前に何らかの改善策が打てた可能性もある。現実には、マスメディアによる批判を極端に嫌う大手企業のオーナー経営者も少なくない。

こうしたオーナー経営者には好都合に見える「マスメディアの沈黙」も、ガバナンス不全で経営破綻した企業にとっては「不幸」なことかもしれない。ジャニーズ不祥事の調査報告書は、すべての同族経営企業にとって「他山の石」となる貴重な情報なのだ。オーナー経営者には一読をお勧めしたい。

文:M&A Online

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