業績回復が鮮明な「ANA」と「JAL」成長速度に違いが生じる要因は?

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航空会社大手のANAホールディングス<9202>と日本航空(JAL)<9201>の業績回復が鮮明になってきた。ANAは2023年3月期に3期ぶりに営業損益が黒字化し、2024年3月期第1四半期も4期ぶりに営業黒字を達成した。

JALも2023年3月期に、営業損益に代わる指標として公表している「財務・法人所得税前損益(当期利益から法人所得税費用、利息、その他の財務収益・費用を除いた損益)が3期ぶりに黒字化。2024年3月期第1四半期もANA同様に4期ぶりに黒字を達成した。

ANAは2023年10月に日本郵船傘下で国際航空貨物事業を手がける日本貨物航空(東京都港区)を子会社化し、航空貨物輸送サービスの拡充に乗り出す。2017年に格安航空会社Peach・Aviation(ピーチ)を子会社化して以来、6年ぶりの企業買収だ。

日本貨物航空の2022年3月期の売上高は、前年度比1.54倍の1890億円、営業利益は同2.23倍の744億7800万円と好調に推移しており、子会社化後のANAの業績に少なからぬプラスの影響が見込まれる。

一方、JALは2022年に、コロナ禍で厳しい経営状況にあった空港店舗や免税店などを運営するJALUXを、JALと双日が共同出資するSJフューチャーホールディングスを通じて子会社化したほかに、企業買収に関する適時開示情報はない。

こうした取り組みの差が、コロナ禍後の成長速度を左右する一因になる可能性は低くはなさそうだ。

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ANA Cargoとの統合で競争力を強化

ANAの2023年3月期の売上高は1兆7074億8400万円で、前年度より67.3%増えた。日本国内で行動制限が緩和されたのに加え、各国の入国制限も緩和が進んだことから大幅増収となった。

これに伴って損益も改善し、営業損益は1200億3000万円(前年度は1731億2700万円の赤字)と黒字転換した。

この流れは新年度に入っても変わらず、2024年3月期第1四半期に31.6%の増収、437億8400万円の営業黒字(前年同期は13億2100万円の赤字)を達成した。

こうした業績回復の中、同社が踏み切ったのが日本貨物航空の子会社化。同社は日本郵船など海運4社とANAホールディングスが出資して設立した企業で、日本郵船が2005年に子会社化していた。

ANAは将来、日本貨物航空とANAグループの貨物事業会社であるANA Cargoを統合することで、航空貨物輸送サービスの競争力を高める計画だ。

少ないM&A実績

JALの2023年3月期の売上高は1兆3755億8900万円で、前年度の2.01倍に急増した。旅客需要が回復基調にあるほか、貨物事業に注力したことから大きく伸びた。損益も「財務・法人所得税前損益」が645億6300万円(前年度は2394億9800万円の赤字)となり、黒字転換を果たした。

2024年3月期第1四半期は41.9%の増収、313億8300万円の黒字(前年同期は276億200万円の赤字)を確保。好調な新年度のスタートとなった。

同社はANAとは対照的に企業買収に関する適時開示情報は少ない。2014年に北海道エアシステムを子会社化するなどの取り組みはあるが、近年適時開示した情報はJALUXだけに留まっている。今後、企業買収による成長戦略に舵を切るのか、それともこれまでのスタイルを踏襲するのか。M&Aがコロナ禍後の成長要因の一つに浮上しそうだ。

文:M&A Online