J-REITの合併は株価の値上がりサインとなりうるか?

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日本で初めてJ-REIT銘柄が誕生したのは2001年9月です。「ルノアールでタバコを燻らす怪しい人たちが手を出すもの」という不動産投資のイメージを一新し、一般投資家にも道を開きました。上場銘柄数も着実に数を増やし、2018年4月の段階で60を数えています。サブプライムローンに端を発した世界金融危機の煽りを受けて再編が進んだJ-REIT。2012年1月に3兆円だった時価総額は、2017年1月に12兆円まで膨らみました。しかしそこから失速。日本の不動産市況を牽引するオフィス賃料は横ばいを続け、J-REITは規模拡大を目指す合併が続いています。果たして合併した銘柄は投資家にとってのチャンスとなるか、という話です。結論からいうと、どうやらなりそうですね。

この記事では以下の情報が得られます。

  • ①リートの基礎知識(仕組み)
  • ②銘柄の選び方
  • ③J-REITで再編が進む理由



IPOで爆発的な値上がりが期待しにくいJ-REIT

リートの合併には大きく2種類があります。

  • ①スポンサーの変更
  • ②同一スポンサーによる合併


2つの違いはリートの仕組みそのものを理解することが近道です。まずはその説明から。
企業の株価との違い→リートの仕組み→時代の変遷の順を追っていきます。

4月に新規上場したAI開発のHEROZ<4382>が、公募価格4500円の10倍超となる4万9000円の初値をつけて話題となりました。同社の2018年4月期売上予想は11億300万円、経常利益は3億円です。収益の柱は将棋アプリ「将棋ウォーズ」。それだけ見ると「吹けば飛んでしまう」ようなベンチャー企業です。では、なぜこれほど注目されるのか。それは現役プロ棋士に勝利したというディープラーニング技術や、マネックスと組んでAIトレーディング分野に進出している点が評価されているからです。すなわち、これからの成長性、期待感が値段を吊り上げています。

リート系銘柄はこうはいきません。例えば、2月に上場したザイマックス・リート投資法人<3488>。2018年8月期の業績予想は、売上高13億3800万円、経常利益5億1600万円でした。初値は公募価格の10万5000円を1,000円下回る10万4,000円。こうした公募割れは、J-REITでは珍しいものではありません。なぜか。J-REITは長期で安定的に高い利回りを出すことに注力しているからです。

これはリートの仕組みを考えると容易に説明がつきます。リートは様々な投資家から資金を調達し、オフィスビルや商業施設、ホテルなどの複数の不動産を所有して利益を出すスキームです。不動産に依拠しているため、業績や分配金の急上昇は見込めません。ポートフォリオを固めて確実な収益を出すことで投資家の評価が高まり、株価が上がるというわけです。値上がり要素の中に、スポンサー力というものが潜んでいます。それは何でしょうか。

リートを構成する要素は大きく4つあります。投資家、不動産、アセットマネージャー、スポンサーです。「〇〇投資法人」というのは、物件を所有して投資家の資金を預かる単なる箱です。ペーパーカンパニーといっても過言ではありません。不動産の取得や売却、資金調達などの調整を行っているのが、アセットマネージャーです。アセットマネージャーは投資法人を操縦する主要プレーヤーです。

このアセットマネージャーの株主となるのが、スポンサーです。通常、商社や不動産会社、金融機関などが不動産投資会社を設立し、リートの母体を作ります。その会社が上場して、一般投資家から資金を調達するとJ-REITです。例えば、大和ハウスリート投資法人<8984>。こちらは大和ハウス工業をスポンサーとし、住居や物流施設などを主軸としたポートフォリオを組んでいます。スポンサー(大和ハウス)は株主であると同時に、不動産を供給する側でもあります。大和ハウスリート投資法人の場合、大和ハウスグループの開発物件取得比率は96.3%(取得価格ベース)です。スポンサーの力が強く、収益性の高い都心の物件などを保有していると、当然リートの価値も上昇するというわけです。

スポンサー側にとっては保有する不動産を譲渡することで、有利子負債を圧縮。バランスシートのスリム化を図ることができます。得られた現金を本業の研究開発費などに充てて、事業拡大を行えるなど、メリットは大きいです。収益性の高い物件を売却して、不動産をオフバランスしようというインセンティブが働きます。

というわけで、スポンサー力があるリートほど投資家の人気が集まりやすい。その背景には、こうした理由があるのです。

数々のお宝銘柄を生み出した世界金融危機

東証REIT指数
東京証券取引所「東証REIT指数」

上の図は、2001年9月から2018年4月までの「東証REIT指数」の推移です。時系列で見てみましょう。2007年5月に最高値をつけています。米サブプライムローン商品の急上昇(不動産バブル)を受け、海外投資家の資金が急速に入り込んで値段が吊り上がった時期です。そこから凄まじい勢いで下落します。リーマンショックです。2008年に収束しますが、しばらく低迷が続きます。この時期、J-REITの第1次再編が起こりました。スポンサーが破綻するなど、不動産業界は凄まじい打撃を受けたのです。

話題となったのが、ニューシティレジデンス投資法人の破綻。米不動産会社が日本で不動産投資事業を行うために設立しました。保有物件は100を超え、資産規模は2118億円と比較的大規模でした。が、リーマンショックにより新規融資が滞って2008年に民事再生法申請を発表します。上場廃止へと追い込まれました。2009年にビ・ライフ投資法人(現:大和ハウスリート投資法人)と合併契約を締結したというわけです。

この時期、スポンサー破綻などによるリート再編が巻き起こります。そしてその一部が、リートの株価を押し上げることとなりました。キーワードは「負ののれん」です。リートへの投資を考える上で、この「負ののれん」は非常に重要な要素となります。

日本レジデンシャル投資法人のスポンサー、パシフィックホールディングスが2009年に破綻しました。最終的には伊藤忠が新スポンサーとなって、アドバンス・レジデンス投資法人<3269>合併します。このとき、アドバンス・レジデンス投資法人は割安な株価で日本レジデンシャル投資法人を吸収することができました。それにより、「負ののれん」が340億円超も発生したのです。

「負ののれん」とは何か。キャッシュを伴わない、会計上の利益です。会社を買収する際にプレミアムとして上乗せする「のれん」とちょうど正反対のものです。一般的に会社を買うときには、純資産に一定の金額を上乗せして取得します。株式の取得価格と純資産価格の差額は「のれん」として計上されます。株主資本100億の会社を150億円で買収すると、50億円は「のれん」です。これは費用として、時間をかけながら減価償却されるものとなります。

「負ののれん」は、株主資本より安く株式を取得した場合に発生します。株主資本100億円の会社を50億円で買えたとすると、差額の50億円は利益として計上されることとなります。

利益の90%以上を配当するJ-REITは内部留保がありません。しかしながら、唯一剰余金を作るウルトラCが「負ののれん」なのです。「負ののれん」により、急なテナントの退去や不動産の損切りにより損失が発生しても、分配金の減少にならないというメリットがあるのです。

アドバンス・レジデンス投資法人の他にも、合併により「負ののれん」を得ることになったのは、平和不動産リート投資法人<8966>、日本賃貸住宅投資法人<8986>、インヴィンシブル投資法人<8963>、日本リテールファンド投資法人<8953>、いちごオフィスリート投資法人<8975>などがあります。

ちなみに、「負ののれん」が発生してアドバンス・レジデンス投資法人の株主は恩恵を受けましたが、日本レジデンシャル投資法人の株主は不利益を被ることとなります。

過去、統合したリートの銘柄は以下の通りです。

J-REIT総合情報サイト「J-REIT.jp」
J-REIT総合情報サイト「J-REIT.jp」よりJ-REIT変遷図①
J-REIT総合情報サイト「J-REIT.jp」
J-REIT総合情報サイト「J-REIT.jp」よりJ-REIT変遷図②
J-REIT総合情報サイト「J-REIT.jp」
J-REIT総合情報サイト「J-REIT.jp」よりJ-REIT変遷図③
J-REIT総合情報サイト「J-REIT.jp」
J-REIT総合情報サイト「J-REIT.jp」よりJ-REIT変遷図④

同一スポンサーによる合併が進む

2015年ごろからは、同一スポンサーによる合併が進んでいます。直近では、2018年5月の積水ハウス・レジデンシャル投資法人と、積水ハウス・リート投資法人の合併で誕生した、積水ハウス・リート投資法人<3309>があります。このときの「負ののれん」額は22億6100万円です。

「負ののれん」が発生して投資家の利益が高まることはもちろんですが、同一スポンサーによる統合は別のメリットも生み出します。保有資産規模の拡大です。積水ハウスを例にとってみてみます。

▼積水ハウス・リート投資法人の資産規模

物件数 鑑定評価額
積水ハウス・レジデンシャル投資法人(継承資産) 101 2148億2400万円
積水ハウス・リート投資法人(継続保有資産) 12 2602億9000万円
合計 113 4751億1400万円

資産規模が大きくなれば、増資を行った場合のインパクトが小さくて済みます。単純に100億円の増資を行うと仮定した場合、2000億円規模と比べて4700億円の資産規模であれば希薄化による分配金の影響は小さくなります。

日本不動産研究所
日本不動産研究所


上の図は日本不動産研究所が発表した、オフィス賃料の推移と予測です。これによると、2017年ごろからほぼ横ばい状態が続く見込みです。オフィス賃料は不動産市況の試金石。そう考えると、日本の不動産価格が上昇する気運は乏しいと見るべきでしょう。すなわち、同一スポンサーによるリートは、合併して資産規模の拡大を目指すものと予想できるのです。J-REIT銘柄の合併ニュースは見逃せない情報となりそうです。

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