インサイダー取引の課徴金 過去最高の1億9625万円

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過去最高の課徴金 提携公表前に買い付け

金融庁は9月1日、東証プライム市場上場の半導体商社イノテック<9880>(横浜市)の株でインサイダー(内部者)取引をしたとして、香港の投資会社CVPホールディングスの役職者に課徴金1億9,625万円の納付を命じた。金融庁によると、内部者取引への課徴金額としては過去最高。

役職者は外国籍の40代男性で、イノテックとの資本・業務提携に関する契約締結交渉を担当。それにも関わらず、提携の事実が公表された2017年8月29日より前の8月3~9日にわたり、自己名義と自身が100%出資する法人名義の口座でイノテック株計99万1,600株を7億7,551万円で買い付けた。

証券監視委がクロスボーダー取引の実態を解明

2017年8月29日の時点で764円だったイノテックの株価は、CVPとの提携公表後2週間で980円まで上昇。香港に居住する役職者の口座はいずれも海外の証券会社に開設されていたが、クロスボーダー取引の実態解明に当たった金融庁の証券取引等監視委員会が2019年12月に課徴金納付命令勧告に踏み切った。

イノテックは中国でのビジネス拡大に向けてCVPとの協業を模索していたものの、勧告直後に提携の見直しを表明。最終的に「当初見込んでいた成果を両社が得られる可能性は低い」と判断し、2020年2月25日に関係を解消した。

アジア開発は架空売上を虚偽記載

CVP役職者への課徴金納付命令発出と同日、金融庁は東証スタンダード市場上場の投資会社アジア開発キャピタル<9318>(東京都中央区)に対しても、架空循環取引による売上高の過大計上など不適切な会計処理を行ったとして課徴金1,500万円の納付命令を決定した。

金融庁によると、同社は子会社の蓄電池販売による売り上げとして16億7,000万円を計上。書類上の取引だけで実体がなかったにも関わらず、2017年4月から2019年6月までの有価証券報告書と四半期報告書に記載した。東京証券取引所は2021年8月、アジア開発株を特設注意市場銘柄に指定し、同社に上場契約違約金2,880万円を請求している。

東京機械株を買い占め

アジア開発は新聞印刷の輪転機最大手、東京機械製作所<6335>に対して株式の大量買い付けを行ったことでも知られる。2021年6月以降、一時は40%近くまで買い占めたものの、東京機械の買収防衛策発動が最高裁で認められたため不発に終わった。同社は2022年2月、保有する東京機械株の大半を読売新聞東京本社など新聞6社に譲渡すると発表。特別損失として、16億2,500万円の売却損を計上することも明らかにした。

慢性的な赤字を隠そうとした可能性を指摘

証券取引等監視委員会は赤字状態が続いていたアジア開発が売上高を大きく見せようと装った可能性があると分析し、2022年6月に課徴金納付を命じるよう勧告した。

金融庁の命令決定を受け、同社は「事態を深刻に受け止め、再発防止に取り組むとともに、信頼回復に努めてまいる」とのコメントを発表。課徴金は2023年3月期の第1四半期連結決算で特別損失として計上済みであることも改めて説明した。

文:M&A Online編集部

関連リンク:
イノテック(株)との契約締結交渉者役員による内部者取引に対する課徴金納付命令の決定について
アジア開発キャピタル株式会社における有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について
特設注意市場銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求:アジア開発キャピタル(株)