イケア「家賃99円」アパートは不動産事業進出に向けた布石か?

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家具販売世界最大手のイケアが、東京都新宿区にあるアパートの1室を自社製品で固めた「Tiny Homes」を発表した。2021年12月3日まで入居者を募集し、月額99円で約1年間貸し出す。室内面積はわすか10平方メートルだが、3.5畳(約5.8平方メートル)のロフトがあるため、実質的には15平方メートル程度の小型ワンルームマンションに相当する。なぜ世界企業のイケアが、たった1室の狭小アパートを貸し出すのか?

99円アパートは「家具のPRイベント」なのか?

イケアは「Tiny Homes」紹介ホームページで「小さな部屋では、縦のスペースをうまく使えるかがひとつのカギ。部屋を立体的に捉えることで、限られた空間に新しい可能性が広がります」とアピール。日本の狭い住宅事情でも、イケアの家具を使うことで快適な住環境を実現できることをアピールしている。

「Tiny Homes」の間取り図(同社ホームページより)

つまり家賃99円の「Tiny Homes」は自社の家具を拡販するための、抽選で選ばれる居住者を巻き込んだ「消費者参加型セールスプロモーションイベント」だ。事実、大手マスコミなどがこぞって大きく報道し、企業のPR企画としては大成功を収めたといえるだろう。

だが、本当にそれだけか?イケアの提供する「Tiny Homes」は、SPILYTUS(スピリタス、東京都港区)が展開する十数平方メートルの狭小アパート「QUQURI」の1室。「QUQURI」は東京都心で家賃6万〜8万円の物件を提供し、最小限のモノしか持たない生活をしているミニマリストの若者たちに人気がある。

コロナ禍で「脱都心」の流れがある一方で、東京23区のマンション価格がバブル期以上に高騰しているにもかかわらず販売が好調といった「都心回帰」の流れも根強い。賃貸でも「割安で都心で住める」物件として「QUQURI」をはじめとする狭小アパートが増えつつある。

米国では集合住宅プロジェクトへの参入も検討中

不動産投資としても魅力的という。「格安の家賃」と言われてはいるが、一般的なワンルームマンション(20平方メートル超)のスペースで2室を置けるため、実質的には1室分で13万〜16万円の家賃が取れる好条件となる。

例えばJR大久保駅徒歩7分の「QUQURI 北新宿」(築1年、13.49平方メートル)で家賃は6万9500円、同徒歩8分の「グランピエール」は(築2年、20.34平方メートル)で家賃は7万5000円だ。1平方メートル当たりの運用利回りは、狭小物件の方が高いのだ。

イケアはこうした狭小アパート所有者向けに、家具付き物件のコラボレーション(協業)を手がける可能性がある。狭い部屋を効率的に利用でき、若者のブランドイメージも高いイケアの家具を備え付けとすることで、アパート所有者にとっては自社物件の差別化と集客につながる。一方イケアは、まとまった量の家具を購入する大口ユーザーの顧客開拓になる。

イケアがさらに踏み込んで、アパート・マンション開発や経営に乗り出すかもしれない。事実、イケアの親会社であるインカ・ホールディンスは米国の大型店舗開発に当たり、小売店舗に加えてホテルや集合住宅プロジェクトが含まれる可能性があるとしている。

国内では「無印良品」を展開する良品計画が「無印良品の家」で住宅建築に参入。団地やマンションなどの集合住宅のリノベーションなども手がけている。家具や雑貨などに比べると、はるかに売上や利幅も大きく、新規事業としても魅力的だ。

良品計画が手がけた集合住宅のリノベーション(同社ホームページより)

デザイン性に優れブランド力が高い良品計画の住宅事業は、業態が近いイケアにとっても気になるだろう。「Tiny Homes」もキャンペーン名というよりも、住宅ブランドのネーミングにふさわしいように見える。「イケアの家」が登場する日も、そう遠くないかもしれない。

文:M&A Online編集部

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