HISが売却へ、なぜハウステンボスは3度も「身売り」された?

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「2度あることは3度ある?」エイチ・アイ・エス(HIS)<9603>が大型リゾート施設のハウステンボス(長崎県佐世保市)を売却する方向で調整している模様だ。21日、日本経済新聞が報じた。ハウステンボスの「身売り」は3回目だ。HISは同日、東証での適時開示で「株式の譲渡を含め様々な検討を行っておりますが、現時点において具体的に決定した事実はございません」と発表した。

重い初期投資負担と貸し剥がしで最初の身売り

ハウステンボスは総開発面積が152haと、国内最大の単独テーマパーク。この広大な敷地は江戸時代に干拓された新田だった。太平洋戦争時に海軍が接収し、海軍兵学校分校を開設。戦後は復員兵を受け入れる厚生省佐世保引揚援護局が置かれた後、陸上自衛隊針尾駐屯地となった。

1957年に同駐屯地は廃止され、長崎県に払い下げられた。県は「針尾工業団地」として造成したものの、工業用水不足などで企業誘致が進まず、空き地のまま20年以上放置された。そこで県は長崎オランダ村(長崎県西海市)にテーマパークの開設を依頼。同社が受け入れて1992年3月に「ハウステンボス」を開業した。

2000億円以上をかけてハリボテではない本格的な街づくりを実現したテーマパークだっただけに、バブル崩壊後の開園にもかかわらず入場者は多く、1996年度には380万人に達した。が、その後は減少に転じ、2001年度の入場者は293万人と300万人を切る。

初期投資負担が重かった上に、メインバンクだった都市銀行が金融大再編前に債務処理を迫られたこともあり、ハウステンボス運営会社の資金繰りが急速に悪化。2003年2月に2289億円の負債を抱えて会社更生法の適用を申請し、事実上倒産した。

リーマンショックに伴う集客減で2度目の身売り

テーマパークとしての営業は継続し、野村ホールディングス<8604>のベンチャーキャピタルである野村プリンシパル・ファイナンスをスポンサーとする再生計画案が認可。同社がハウステンボスに110億円を出資して2004年4月にリニューアルオープン、経営再建に乗り出す。

当初は韓国や台湾、香港、中国などの海外旅行ブームに乗ってインバウンド集客に成功した。しかし、2008年のリーマンショックに端を発した世界金融不況の影響でインバウンド客が激減。2009年3月期には約27億円の営業赤字を計上する。2010年3月、出資分を回収できないまま野村プリンシパルはハウステンボスの支援から手を引いた。

野村プリンシパルから経営撤退の申し入れを受けた地元は、HISの澤田秀雄社長にハウステンボスの再建を依頼。澤田社長は支援は了承したが、「身請け」には否定的だった。だが、九州財界からの強い働きかけに加え、60億円あった債務の8割を債権放棄した上で残る債務も地元企業が肩代わりして債務をなくし、佐世保市が固定資産税納付額に相当する再生支援交付金を10年間出すなどの条件で、澤田社長もようやく重い腰を上げる。

HISは2010年4月、集客数を増やすためにハウステンボス敷地の南側3分の1を無料で入場できる「フリーゾーン」(現「ハーバーゾーン」)として開放。ハウステンボスとは無縁の企業による新規出店も受け入れた。2015年7月にはHISが恐竜型ロボットが宿泊受付をする「変なホテル」1号店を開業するなど話題を集めた。

ロボットがフロント業務をする「変なホテル ハウステンボス」(同社ホームページより)

実はHISが2018年12月に、中国からの集客増を狙って上海に本社を置く投資会社の復星集団(フォースングループ)から24.9%の出資を受けると発表している。しかし、2019年2月に理由が明らかにされないまま中止となった。当時、積極的な海外投資をしていた大手企業への融資を制限するよう金融機関に通達を出していた中国政府からの圧力がかかったとの見方もある。

コロナ禍による親会社の経営不振で3度目の身売りへ

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大に伴う非常事態宣言の発出などで、国内外からの観光客が激減。ハウステンボスも2020年9月期の売上高が前期(283億8100万円)の半分以下となる136億8400万円に激減し、33億9600万円の営業赤字(前期は56億500万円の黒字)に転落した。

その後は新型コロナの逆風下にもかかわらず入場者数を増やし、2022年3月中間期(2021年10月〜2022年3月)の連結営業損益は上期としては3年ぶりに黒字転換している。

だが、親会社のHISがコロナ禍から立ち直れず、2022年4月中間期(2021年11月~2022年4月)の連結最終損益で上期としては過去最悪となる269億円の赤字を計上したのを受けて、資金調達のためにハウステンボスの売却を決めたようだ。売却額は数百億円規模とみられている。

3回目の「身売り」となるハウステンボスだが、開業から30年を経過した現在もテーマパークとしての集客力は保っている。香港の投資会社は買収後も営業を継続し、香港や中国からのインバウンド観光客誘致に取り組む見通しだ。

新型コロナの新規感染者数は過去最大を更新しているが、日本政府は「ウイズコロナ」に舵を切り、外国人観光客の入国制限緩和も続く。ハウステンボスの業績は引き続き回復する可能性が高い。親会社であるHISの経営不振が大きな不安材料だったが、香港の投資会社への売却で解消される。ハウステンボスが閉園する恐れはなくなったと言えるだろう。

文:M&A Online編集部

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