岸田首相が掲げる経済政策の「目玉」としてクローズアップされている「資産所得倍増計画」。実は国民の「資産所得」ではなく、「家計所得資産」のうち株式投資の総額や口座数を5年間で倍増するのが目標だ。では、個人の「資産」を投資運用によって倍増するには、どれだけ時間がかかるのだろうか?
政府の「資産所得倍増計画」で倍増する「資産所得」は「資本所得」とも呼ばれ、給与報酬などの「労働所得」と違い、証券や信託、不動産といった投資資産の運用益や預貯金の利子などの資産が生む所得のこと。「不労所得」とも言われる。
同計画は国民の「資産所得」ではなく、その元本となる「資産」を増やすのが狙い。5年間でNISA(少額投資非課税制度)の総口座数を3400万口座、投資総額も56兆円に、それぞれ倍増するのが目標だ。株価などの動きに左右されるため、元手が2倍になったからと言って所得が2倍になるかどうかは分からない。
では、個人が元手となる資産を倍増するには、何年かかるのか。元本を2倍にする期間を割り出す簡単な計算式として「72の法則」がある。これは「72÷年間運用利回り(%)=元金が2倍になる年数」だ。国内株式投資の平均運用利回りは3%程度と言われている。
「72の法則」に当てはめると、24年かかる計算だ。これは複利計算なので、運用益は1円も引き出さず元本ともども次の投資に回す必要がある。もちろんNISAの急増などで「買い」が集中して株式相場が高騰すれば、期間短縮も可能だ。
ただし、政府が掲げる5年間での倍増を新たな投資資金の投入なしに運用だけで実現するには、14.4%という高利回りを達成しなくてはならない。
一方で株価が下落すれば、運用利回りも下がって倍増までの期間は伸びるし、資産が目減りする可能性すらある。政府が世界最高水準の研究力を持つ大学の育成を目指して設立した大学ファンド(基金)が、債券や株式の値下がりで運用資産が目減り。運用開始からわずか半年の4~9月に1881億円の損失を抱えたのは記憶に新しい。
日本人はそうした下落リスクを嫌い、家計金融資産の54.9%を「安全資産」の現金・預金が占めているのが現状だ。米国の12.8%、英国の27.2%を大幅に上回っている。そこで政府は積み上がった家計の現預金を株式市場へ移そうとしているのだ。
株式市場は「買い」が入れば上昇する。「資産所得倍増計画」が広く国民に受け入れられれば、かつての「アベノミクス」と同様に株価を押し上げ、「資産所得」を増やすことができるだろう。問題は「安全資産」から「リスク資産」へ向かう資産シフトのスピードだ。米国や英国は長い時間をかけて株式などのリスク資産へシフトしてきた。
これを政府が提唱する5年という短期間で実行した場合、急激な株高とそれを目の当たりにした多くの国民が身の丈に合わない無理な投資をする可能性が高い。いわゆる「バブル」だ。株価が上がるだけ上がり、国民が株式市場に資金投入する余力をなくせば株式市場は暴落することになる。
そうなれば「バブル」に入ってから高値で株式市場に参入した国民は、個人資産の大半を失うことになりかねない。労働所得で損失をリカバリーできない高齢者にとっては死活問題だ。政府も、株式投資に参加する国民も、決して急いではならない。
国民の資産所得を確実に増やすために、政府は10年、20年をかけて緩やかにリスク資産への投資を促す必要がある。目先の相場が下落しても、長期間保有し続けることでリスクを減らすことが可能だからだ。
金融庁の調べではNISAの口座数は20〜30代が424万口座と最も多く、長期投資が可能な若い世代が注目していることが分かる。政府が「資産所得倍増計画」を成功させるためには、株価が暴落しても狼狽売りせず長期間にわたって投資活動を持続できるだけの時間的余裕がある若年層の取り込みがカギになるだろう。
文:M&A Online編集部
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