2007年2月~3月にNHKで全6回にわたって放映され、日本の経済ドラマの代表的存在でもあるドラマ「ハゲタカ」。真山仁による小説が原作ではあるが、ドラマと小説は別物として楽しめる。2005年のニッポン放送株を巡るフジテレビとライブドアの攻防戦とほぼ同時進行で制作されたこともあり、現実の出来事を彷彿とさせるリアリティあふれる内容で話題となった。会社のこと、企業買収のこと、ひいては資本主義のことをドラマを通して学べるのも魅力の一つだ。そこで、ドラマのあらすじ&見どころを経済キーワードを軸に紹介。時間のある週末や長期休暇の合間に、これらのキーワードを意識しながら改めてイッキ見してみては?
1998年夏、「日本を買い叩け」とアメリカ本社からの命を受け、外資系ファンドのホライズンインベストメント日本代表として鷲津政彦(大森南朋)が日本に帰国。手始めに、以前勤めていた三葉銀行を相手に、不良債権のまとめ買い、バルクセールを仕掛ける。三葉側の担当者は鷲津のかつての上司だった芝野健夫(柴田恭兵)。
三葉銀行は、53件、額面総額1423億円の不良債権を売りに出す。最低売却価格は410億円と見積もっていた。一方で安く買って高く売るのが目的のホライズン。コピー機を何台も持ち込み、債務者情報をくまなくチェック、精査していく。将来的に回収できる金額、その期間を割り出し、買取価格を決めるのだが、53件中、査定ができたものは13件のみ。値がつかないものは1件1円として、93億1047万円という買取価格を提示する。三葉側としては受け入れがたい価格だが、ここで鷲津の事前根回しが功を奏す。三葉銀行常務の飯島亮介(中尾彬)を抱き込んでいたのだ。取引の際に交わされる秘密保持契約を盾に、飯島が汚れ役として引き受けてきた政治家や暴力団関係の不良債権をバルクセールに突っ込むことを提案していた。こうして、飯島の一声で取引は成立。まさに日本の会社を買い叩いた結果となった。
時は経って、2000年夏。玩具メーカー「サンデートイズ」を巡る鷲津と芝野の攻防が始まる。サンデー社は社長である創業家の大河内瑞恵(冨士眞奈美)が会社を私物化し、債務超過に陥っていた。メインバンクである三葉銀行は、芝野にサンデー社の再建を任せる。
一方、鷲津はサンデー社の500億円分の債券のうち、三葉銀行以外が抱える350億円分を水面下で買い集め、最大債権者となっていた。債務超過となっているサンデー社では、株式は紙くず同然。そのため、最大債権者は最大株主と同等の発言権を持つ。社長の瑞恵がサンデー社のガンであるとした鷲津は、オーナー一族が経営から退くことを条件に債券をチャラにすることを提案するも一蹴される。そこで、鷲津が新たに用意した策がゴールデン・パラシュートだ。
経営陣が経営権を引き渡す代わりに、多額の退職金等を受け取ることができるというものだ。ドラマでは瑞恵の息子、伸彰(小林正寛)に3億円の報酬と次期社長の座を提示。鷲津が料亭でジュラルミンケースいっぱいの札束を伸彰に見せつけるシーンは圧巻だ。
ゴールデン・パラシュート(黄金の落下傘)は買収防衛策として知られているが、逆に買収を促す一面もある。防衛策としては、事前にゴールデン・パラシュートを導入しておくことで、買収コストが膨らみ、買収しにくくなるという効果が期待できる。一方で、株価上昇につながる、株主にとって好都合な買収提案を経営陣が受け入れやすくなるという真逆の一面もあるから面白い。
芝野の働きかけで、サンデー社の瑞恵社長の解任が取締役会で可決。息子の伸彰を新社長に据えて民事再生を申し立てた。再建計画を進めるスポンサー探しが始まるが、三葉銀行としては系列の投資会社アイアンオックスでほぼ内定していた。そこへホライズンもスポンサーとして名乗りをあげる。その記者会見で、鷲津がマスコミに対して「お金を稼ぐことがいけないことでしょうか」と問いかける様は、「もの言う株主」村上世彰を彷彿とさせる。
ホライズン側は前社長の瑞恵を担ぎ出し、サンデー社のスポンサーはサドンデスの入札形式で決められることとなった。最低入札額120億円、上乗せ金額は最低1億円で入札がスタート。サンデー社の企業価値試算から190億円が上限という結論を出している両者。大金をかけたやり取りは見ているこちら側にも緊張感が伝わってくる。
またまた時は経ち、舞台は2004年。ホライズンは、この6年で13社を買収し、その買収金額は総額3000億円に。瀕死の企業をむさぼる「ハゲタカ」の名で世間にもその存在を知らしめていた。
そんなホライズンの次のターゲットは、総合電機メーカーの大空電機。カリスマ経営者の大木昇三郎(菅原文太)が会長を率いる、日本型経営の典型ともいえる会社だ。カメラレンズ事業から創業し、これまで一度もリストラをしたことはない。
銀行を辞めて企業再生家となった芝野は大空電機の再建を担っており、社長の塚本邦彦(大杉漣)と共に「フェニックス計画」を打ち出した。だが、人員削減を良しとしない大木会長から何度もダメ出しをくらい、難航していた。
一方、本社からカメラ・レンズ事業部に狙いを定めることを伝えられた鷲津は、同社の株式を8%超まで買い集め、筆頭株主となっていた。
こうして戦いの場は株主総会に。鷲津はプロキシーファイト(委任状争奪戦)を仕掛ける。株主提案として、20名の取締役のうち11名の選任を提案。終身雇用、家族主義といった日本型経営の企業は生まれ変わらなければならないことを声高に説く。だが、その主張もカリスマ、大木会長からの手紙と死をもってかき消されることに。株主たちの感情は現経営陣側へと持っていかれ、プロキシーファイトは失敗に終わってしまう。
プロキシーファイトに失敗したホライズンは、すぐさまTOB(株式公開買付)の準備へと取り掛かかる。1株1150円で51%以上の買い付けを目指すと発表。それに対し、新興のIT企業ハイパークリエーションが大空電機のホワイトナイトとして登場し、1株1470円のTOB買付価格を提示する。同社は株主総会の時点で3%強だった保有株を5%超にまで増やし、バックにはMGS銀行がついていた。ハイパークリエーションの社長は、鷲津がかつてバルクセールで手に入れて売り飛ばした老舗旅館・西乃旅館の息子、西野治(松田龍平)。因縁ともいえるTOB合戦が開始され、西野はメディアをも巧みに利用し、世間を味方につけていこうとする。その後の顛末を含め、メディアを駆使した西野の姿に、元ライブドア社長の堀江貴文を重ねる人は多いだろう。
通常、ホワイトナイトには買収対象会社と同業の会社が登場する。日本のものづくりの精神を掲げ、「実業」を営む大空電機に、「虚業」と言われがちなIT企業が手を差し伸べ、同じく「虚業」と言われがちなファンドが対抗する構図は、日本経済の新たな幕開けを予感させるようだ。
水面下で中国の電機メーカー、テクスンに大空電機売却を働きかけていたことで、ホライズンを解雇された鷲津。鷲津の退場でハイパークリエーションのTOBが成立するも、直後に西野がインサイダー取引で逮捕されてしまう。思いつめ、拳銃を自らの頭に突き付けた西野を止めようとした鷲津は誤って撃たれてしまう。
一方、ハイパーの件で大空電機の株価は大暴落。新生ホライズンが絶好のチャンスとばかりに株をかき集め、新経営陣を大空電機に送り込む。目的は、大空電機の創業部門であるカメラ・レンズ事業部を軍事利用のために売却することだ。コストカッターとして残った芝野。各事業部は切り売りされ、大胆なリストラが進められるのを目の当たりにし、思い悩んだ芝野は病院でリハビリを続ける鷲津に協力を求める。そして、従業員がカメラ・レンズ事業部を買い取り、新会社をつくるEBO(エンプロイー・バイアウト)を目指すことに。
ちなみに、経営陣が自らの会社を買収するのはMBO(マネジメント・バイアウト)、経営陣と従業員が一体となって行うことをMEBOという。これまで資本主義のルールを振りかざして企業買収をしてきたホライズンを、「株式会社は株主のもの」という資本主義のルールにのっとった形で出し抜く様は痛快だ。改めて「金とは何なのか」「会社は誰のものなのか」を考えさせられる最終回となっている。
まとめ・文:M&A Online編集部