赤字額が売上の2倍、「ぐるなび」の従業員削減は不可避か

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ぐるなび本社がある東宝日比谷ビル

ぐるなび<2440>の2021年3月期第1四半期の売上高が前期比76.4%減の17億8300万円となり、営業損失を38億2400万円計上しました。新型コロナウイルスの感染拡大で契約店舗数が激減し、営業損失額が売上高を2倍以上上回る異常事態となりました。

ぐるなびは本社面積を40%減らし、従業員の在宅勤務を推進して4億円を削減します。かねてより従業員が多すぎると指摘されていましたが、今回も大規模な従業員の削減を行うことはありませんでした。新型コロナウイルスでこれまでの常識が通用しなくなった今、その聖域に足を踏み入れるときがきたのかもしれません。

この記事では以下の情報が得られます。

・ぐるなびの業績
・楽天との資本業務提携の内容
・ぐるなびとカカクコムの比較

積み上がった利益剰余金が組織改革を阻害

歌舞伎町
飲食業界が恐れていたコロナ第2波が襲来(画像はイメージ Photo by PAKUTASO)

ぐるなびが2021年3月期第1四半期で計上した純損失額は37億7700万円。有料加盟店舗数は前年同期比12.5%減の51,640店舗となりました。契約店舗からの掲載料であるストック型サービスの売上は13億5000万円で、同じ時期と比べて46億6400万円のマイナスとなりました。時短営業や休業要請、それに伴う売上減でプロモーション費用をかけられなくなった店舗が増加した上、店舗そのものの閉鎖による解約が全体の30%にまで及んでいるのです。

新型コロナウイルスの感染者が再び増加し、各自治体は酒類を提供する飲食店に営業時間短縮要請を出しています。体力のない居酒屋は持ちこたえることができず、閉業へと追い込まれています。この先、政府からの給付金が底をついてキャッシュの尽きた飲食店の倒産が、更に加速する可能性もあります。

ぐるなびはグルメメディアの中で「宴会場所を探すサイト」という消費者意識を醸成し、口コミの食べログ、クーポンのホットペッパーとの差別化を図っていました。宴会需要が壊滅的になった今、最も打撃を受けているメディアなのです。

それでも余裕があるのは、これまで積み上げた資産があるから。ぐるなびは37億円以上の純損失を計上しても、6月末時点で純資産が153億4800万円あります。利益剰余金が147億6700万円も積み上がっているのです。自己資本比率は84.7%。食べログを運営するカカクコム<2371>の自己資本比率は71.9%です。ぐるなびは極めて財務状況の良い会社だったといえます。

その安心感が、改革に着手できなかった要因の一つとなります。

事業の立ち上げから24年たったぐるなびは、人員過多に陥っていました。2020年3月末の従業員数は1476人。従業員一人当たりの売上高は2100万円です。一方、カカクコムの従業員数は1082人。一人当たりの売上高は倍以上の5600万円です。カカクコムは主力の「食べログ」だけでなく、「価格.com」、「求人ボックス」、「フォートラベル」、「映画.com」など、多様なメディアを展開している一方、ぐるなびは自社メディアに付随するサービスに留まっています。

ぐるなびの2021年3月期第1四半期の総費用56億700万円のうち、人件費は20億1800万円で36%を占めています。今回、家賃を削る意思決定をしましたが、大幅に経費削減ができるポイントは人件費の他にありません。一人当たりの売上高をカカクコムと同水準にすると、従業員数は現在より62%少ない550人となります。四半期で12億6000万円削減できる計算です。

ぐるなびは総勢1000人で飲食店をサポートする体制を打ち出すなど、業績が頭打ちになってからも頑なに雇用維持を明確にしていました。いわば聖域となっているのです。それを見直す時期が来たように見えます。

楽天が手を差し伸べるはずという勘違い

1000人サポート体制
ぐるなびが打ち出した「1000人サポート体制」(画像は決算説明資料より)

飲食業界内では、業績が悪化したぐるなびは楽天<4755>が支えるだろうという観測が広がっています。楽天は2018年7月に資本業務提携をし、4,677,600株(9.6%)の株式を取得。更に2019年5月に追加取得をして2020年6月末の段階で、7,017,300株(15.0%)の株式を保有する筆頭株主です。ぐるなび楽観論の背景にはこの資本業務提携があります。

この観測は一方で正しいといえますが、間違っていもいます。「楽天が支えるだろう」という意味が、「今の従業員を抱えたまま」あるいは「今の組織体制を維持したまま」ということであれば、間違っています。楽天が今のぐるなびに、追加で資金を入れる合理的な理由はありません。なぜなら、楽天はすでにやりたいことを実現しているからです。

楽天がぐるなびと資本業務提携した理由は、ぐるなびが契約している飲食店に楽天ポイントを波及させて経済圏を広げたかったため。楽天は自社の飲食店予約サービス「Rakoo」を2019年9月に終了しました。他のグルメメディアに歯が立たず、閉鎖へと追い込まれたのです。しかし、楽天カードや楽天ペイを仕掛けており、全国で67万店ともいわれる飲食業界は諦めきれない産業でした。そこで、ぐるなびとの業務提携の道を歩んだのです。

ぐるなびは契約店舗からの固定の掲載料だけでなく、Web予約による手数料徴収に注力していました。楽天ポイントを付与するインセンティブで、Web予約ユーザーが増加するとみたのです。楽天、ぐるなびの利害は一致しました。

ぐるなびは資本業務提携を機に、杉原章郎氏を代表取締役社長に迎えます。杉原氏は楽天の立ち上げに関わり、楽天ブックスの代表取締役社長や楽天の取締役常務執行役員などを務めました。いわば、三木谷浩史氏の腹心ともいえる人物。楽天の株式保有比率は15%に留まりますが、ぐるなびの手綱を完全に握っているのです。

楽天の保有比率が20%まで高まれば持分法適用会社となり、保有比率に応じて利益または損失を計上しなければなりません。赤字体質の会社の保有比率を高める理由はありません。

ぐるなびが切れるカードがあるとすれば、楽天ポイントの連携を解消することでしょう。しかし、杉原氏が代表となったぐるなびに、それができるとは思えません。

楽天がぐるなびを資金面で支えるのは、今の状態が続いて純損失を計上し続け、債務超過寸前に陥ったときだと考えられます。楽天が欲しいのは、飲食店との繋がりです。ぐるなびが倒れてその基盤を失うわけにはいきません。もしくは、ぐるなびのリストラ費用を捻出するために、大型の資金が必要になったときです。組織をスリム化して黒字体質にできれば、持分法適用会社にするメリットがあるためです。

いずれにしても、楽天が今のぐるなびを支える必然性はありません。ぐるなびの自己資本に厚みがあるうちに人員体制に手をつけ、利益が出る体質を作ることが再生の近道といえそうです。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由