「協働から競争へ」。米企業の間で再び「モーレツ社員」を求める傾向が強まっている。金融大手のゴールドマン・サックス・グループやGAFAの一角を占めるメタ・プラットフォームズ 、 航空機のトップメーカーであるボーイング社などで、相対的な業績評価で給与や昇進を決める社内競争重視の「スタックランキング」を強化していると、米ウォール・ストリート・ジャーナルは伝えている。
1980年代以降に生まれたY世代、Z世代は競争を嫌い、出世よりもワークライフバランスを重視する傾向が強いと言われる。そのため米企業も社内競争型の業務管理から、グループ全体で協力して成果をあげる協業型へ改めてきた。マイクロソフトは10年前に「スタックランキング」を廃止している。
しかし、そうした流れが「静かな退職」と呼ばれる現象を起こしているとの指摘も出てきた。これは退職せず企業に在籍したまま、仕事を適当にこなして安定した生活を維持する状況を指す。コロナ禍に普及したリモートワークで従業員の動きが見えにくくなったことから、経営陣の間で不信感が高まったことが影響しているようだ。
日本でもコロナ禍からの正常化を受けてリモートワークからオフィスへの回帰が進んでおり、「働き方改革」によるワークライフバランス重視の動きが水面下で見直される可能性がある。人手不足に伴い、1人あたりの労働量を増やさざるを得ないという事情があるからだ。
とはいえ、米国とは事情が異なる面がある。米企業で問題になっている「静かな退職」は40歳より若い中堅世代以下に見られる現象だが、日本では50代以上の「働かないおじさん」問題が取り沙汰されるケースが多い。
米国では40歳以下の世代が社員選別と労働強化に抵抗感を示すが、日本の同世代は自分たちより高給でありながら、働かず成果も出さない50代社員に不満を募らせている。
こうした若手の不満を放置したまま全社員を対象にした「社員選別」と「管理強化」を進めた場合、猛反発を受ける可能性が高い。人手不足が深刻で「売り手市場」となっていることから、若い世代は不満があればさっさと転職する懸念がある。
米企業のように成果を出せば給与が大幅に上がるのなら社員も受け入れるだろうが、そこまで柔軟な賃金制度を導入している日本企業は少ない。
すでに米国では「潮目」が変わっているが、日本でもポストコロナ時代の「働き方」が問われることになりそうだ。しかし、その「舵取り」は難しい。
文:M&A Online編集部
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