食べるM&A パン業界の巨人、山崎製パンが見せた製菓業界への“進撃”

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昨日6月15日は「お菓子の日」。全国菓子工業組合連合会が1981年に毎月15日を「お菓子の日」と制定しました。そして毎月12日は「パンの日」。こちらはパン食普及協議会が1982年に定めたとのこと。そんな今週の記念日にちなみ、お菓子もパンも手掛ける製パン界のガリバー企業、山崎製パンの製菓事業について調べてみました。その製菓業界への“進撃”にはM&Aが有効に活用されていたようです。

創業当時から取り組む製菓事業

山崎製パンは、1948年に千葉県市川市にて創業。翌年には和菓子を、翌々年には洋菓子の製造をスタートさせました。1970年10月には、米ナビスコ社と日綿実業(現・双日)と合弁でヤマザキ・ナビスコを設立し、クラッカーの「リッツ」やクッキー「チップスアホイ!」「オレオ」といったナビスコブランドの商品のほか、独自開発した「チップスター」「エアリアル」などの菓子を製造・販売を開始。1988年にはナビスコ社からヤマザキ・ナビスコの株式を取得して子会社化し、同社は山崎製パンの製菓事業の柱となってきました。

東ハト買収で製菓事業強化

2006年7月には、当時経営再建中だった菓子メーカーの東ハトを172億円で買収します。1952年に創業した東ハトは、バブル期に関連会社が手がけたゴルフ場事業が失敗し、2003年に民事再生法の適用を申請して倒産。ユニゾン・キャピタルとバンダイ、丸紅が出資したユニゾン・ホールディングに好調だった製菓事業部門を譲渡し、再建に取り組んでいました。その際に、サッカーの中田英寿を非常勤の執行委員CBOに迎えたことでも話題に。「キャラメルコーン」のパッケージデザインも現在のものに刷新されました。さらに、ロングセラーの「キャラメルコーン」や「オールレーズン」などに代表されるように、どちらかと言うと、甘い系のお菓子に強かった東ハトは、再生を賭けて新たな分野でのヒット商品開発に乗り出します。それが、今では辛い系お菓子の定番となった「暴君ハバネロ」です。
ロングセラーからヒット商品まで、東ハトが所有するこれらの菓子ブランドを取り込むことで、製菓事業の新たな柱を獲得しようというのが山崎製パンの狙いでした。2014年には、山崎製パンの人気商品「ランチパック」のパンの耳をラスクにした「ちょいパクラスク」に暴君ハパネロ味が登場するといったコラボ商品も発売されました。

「ペコちゃん」擁する不二家も傘下に

山崎製パンは「ペコちゃん」など不二家ブランドを手中に。Photo by Kabacchi

2007年4月には、消費期限切れ原料使用の不祥事を起こした不二家を救済すべく、不二家と業務資本提携を結び、関連会社化。翌年11月には新たな業務資本提携契約を締結し、不二家を子会社化しました。山崎製パンの狙いは、東ハト買収時と同じく、不二家が擁する「カントリーマアム」や「ミルキー」、「ペコちゃん」といったブランドたち。

さらに、不二家グループで世界最大級のアイスクリームチェーン店「サーティワンアイスクリーム」を日本で展開するB-R サーティワンアイスクリームも関連会社となり、山崎製パンにとってはブランド力確保という意味で正に「棚から牡丹餅」だったはずです。近年、サーティワンの人気フレーバーを再現したチョコやキャンディーが不二家から積極的に発売されているのも、グループ内でのシナジー効果を得るために山崎製パンが打った施策なのでしょう。昨年夏には、デイリーヤマザキなどのヤマザキグループのコンビニエンスストア限定で、サーティワンアイスクリームのカップアイスの販売を開始し、品薄になるほどの反響がありました。

“ナビスコショック”を乗り越えられるか?

順調に製菓業界でも存在感を強めてきた山崎製パンですが、製菓事業の中核を担う子会社のヤマザキ・ナビスコが2016年に大きな転機を迎えました。2月、ヤマザキ・ナビスコで製造・販売してきた「リッツ」や「オレオ」などのナビスコブランド4商品について、米モンデリーズ・インターナショナルと結んでいたライセンス契約を8月末で終了すると発表。ナビスコブランドの商品はヤマザキ・ナビスコの年間売上高の約4割を占める主力製品であったこと、しかもヤマザキ・ナビスコは2015年12月期が売上、営業利益ともに過去最高を記録するほどヤマザキグループ内でも利益貢献度が高い子会社であっただけに、契約終了発表後の2月15日には親会社である山崎製パンの株価は14%急落し、“ナビスコショック”として世間を騒がせました。

新商品「ルヴァン」とオリジナル商品「チップスター」 Photo by TAKA@P.P.R.S

とはいえ、山崎製パンも何も策を打たずにいたわけではありません。これを機に9月にはヤマザキ・ナビスコは社名をヤマザキビスケットに改め、「リッツ」の後継商品ともいえる「ルヴァン」を世に送り出しました。ちなみに、長年ヤマザキ・ナビスコが冠スポンサーを務めてきたサッカー大会「Jリーグヤマザキナビスコカップ」の名称も、昨年の決勝トーナメントからは「JリーグYBCルヴァンカップ」と変更されています。
一方、ライセンス契約が終了となった「リッツ」や「オレオ」などのナビスコ商品は海外で生産され、モンデリーズの日本法人であるモンデリーズ・ジャパンを通して販売されています。多くの人が「ルヴァン」と新「リッツ」を食べ比べ、ネット上でもさまざまな意見が飛び交いました。
ヤマザキビスケットの2016年12月期の決算を見てみると、売上は3.7%減の388億円、営業利益は27.6%減の25億円と、数ヶ月の穴とはいえ、明らかに“ナビスコショック”による痛手が見てとれます。

ヤマザキビスケットの売上・営業利益           

2015年12月期 2016年12月期 増減額
売上 40,291 38,813 △1,477
営業利益 3,414 2,507 △907

(単位:百万円)

“ナビスコショック”の影響が容赦なく反映される2017年12月期の決算はどうなるのでしょうか。2017年12月期の計画では、売上367億円、営業利益18億円としています。予想される大幅減益に抗うべく、今後どんな新商品を出してくるのか。ヤマザキビスケットの今後、山崎製パンの次の一手に期待したいところです。

文:M&A Online編集部