ニコン<7731>が9月1日付で連結子会社だった金属3Dプリンターメーカー独SLMソリューションズ・グループの株式を追加取得し、完全子会社化した。同社はニコン子会社のNikon AMと経営統合して「Nikon SLM Solutions」に社名変更している。光学製品を主力とするニコンが、なぜ3Dプリンターなのか?
ニコンは2022年9月、4500万ユーロ(約71億2500万円)でSLM株の約10%に当たる増資を引き受け、買収の道筋をつけた。SLMは複数のレーザーを利用して、金属を溶かしながら自由に部品を造形する金属3Dプリンターを開発。大型部品を高速造形できるのが特徴で、宇宙航空産業や自動車産業向けに供給している。金属3Dプリンターでは独EOS、米ゼネラル・エレクトリック(GE)に次ぐ3位で、世界シェアは1割という。
2016年には業界2位のGEが7億4500万ドル(約1100億円)でSLMの買収に乗り出したが、SLMの株主が「買収価格が安すぎる」と反対して破談に終わっている。
ニコンは主力製品の半導体露光装置の開発や生産で培った高精度計測技術や微細加工技術を駆使して、3Dプリンターを製品化した。同社の3Dプリンターは金属製の粉を吹き付けて成形する方式。SLMの金属を溶かしながら造形する方式と組み合わせることで、金属3Dプリンター業界での存在感を高める。
ニコンは2021年4月に3Dプリンターで中・小型人工衛星部品を製造し、米ボーイングなどに納入実績がある米モーフ3Dを100億円弱で買収。M&Aを利用して、金属3Dプリンター事業を強化してきた。同社は職務で賃金を決めるジョブ型雇用を利用してM&A要員を年収2000万円の高待遇で採用しており、今後も3Dプリンター事業でのM&Aがありそうだ。
米市場調査会社SmarTech Analysisによると、3Dプリンターの世界市場は2022年に前年比約23%増の135億ドル(約2兆円)と推定している。成長率はニコンが参入している金属3Dプリンター市場が約25%と、樹脂3Dプリンター市場の約20%を上回る見通しだ。
もっとも、日本国内では3Dプリンターの普及は今ひとつ。とりわけコロナ禍で新規設備投資を見送る傾向が強まったことが響いた。矢野経済研究所によると、2020年の3Dプリンター出荷台数は9210台と前年比では微増だったものの、ハイエンド3Dプリンターの伸び悩みで総売上高は同5.7%減の165億円にとどまっている。
従来は治具や金型が不要なメリットを生かした試作品の製造が主流だったが、海外では多品種少量生産の部品や製品づくりにも活用され始めている。住宅や航空機向けの大型部品など、技術力の向上に伴う応用分野の拡大が進む。現時点で3Dプリンター市場の成長は緩やかだが、その分「のびしろ」があると言える。ニコンが力を入れるのも当然かもしれない。
文:M&A Online
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