「ワクチンは決め手にならない」- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の「決め手」と考えられていたワクチン接種が世界中で進み、気になる知見が明らかになりつつある。それは2度目のワクチン接種を完了した人も新型コロナに罹(かか)る「ブレイクスルー感染」だ。これが広がれば、世界のコロナ対策は「ふりだし」に戻るおそれがある。
NHKは国立感染症研究所による調査によると、2021年4月から6月までの3か月間に67人でブレークスルー感染が確認されたと伝えている。このうち14例でウイルス遺伝子の解析に成功し、うち12例が「アルファ株」で残る2例が「デルタ株」だったという。
日本経済新聞によると、デルタ株の流行拡大が見られるカリフォルニア州ロサンゼルス郡では新規感染者のうち2割が、すでに2回のワクチン接種を済ませていたという。日本でもデルタ株感染が急拡大しており、今後ブレークスルー感染が増加する可能性が高い。
各国政府はワクチン接種が人口の6〜7割に達して「集団免疫」を獲得すれば、新型コロナの感染拡大は止まるという前提で対策を進めてきた。しかし、ブレークスルー感染が確認されたことで、新型コロナ対策を根底から見直す必要に迫られそうだ。
ブレークスルー感染が拡大すると、集団免疫は成立しない。集団免疫は「免疫を獲得すれば、その感染症に再び罹(かか)ることはない」のが前提だ。免疫を獲得しても再び感染してウイルスを撒き散らすとしたら、全員が免疫を持っていないのと同じだ。
ただ、デルタ株の場合はワクチンを接種していれば、重症化する可能性が著しく低いとされている。集団免疫は得られなくても、ワクチン接種で重症化リスクが下がるのであれば問題ないのではないか?
実は、そう単純な話ではない。新型コロナワクチンの効果も永続的ではない。イスラエルでは2回目のワクチン接種から5か月以上経過した60歳以上の人に対し、8月から3回目の接種を実施する。米製薬大手のファイザーも、3回目のワクチン接種でデルタ株の抗体が増えると発表した。新型コロナ感染者が根絶されない限り、世界中で年に2回はワクチンを接種しなくてはならなくなる。
それだけでは済まない。新型コロナウイルスは短期間のうちに多数の変異株が生まれた。ブレークスルー感染が広がれば、変異種を生み出すリスクは高まる。いずれワクチンを接種しても重症化をもたらす変異株が発生する可能性もある。
そうなれば、ワクチン開発からやり直しだ。引き続きロックダウン(都市封鎖)や厳しい行動制限を課されることになりかねない。昨年と同じ状況に逆戻りだ。ブレークスルー感染の拡大が止まらなければ、新型コロナの脅威は長期化するだろう。政府や企業は、それを前提に対策を考える必要がありそうだ。
文:M&A Online編集部
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