M&Aに伴いリストラが実施され、それに自分が対象になっているということもあり得る。第3回では、M&Aに限らずリストラに直面した人々の相談を数多く受けてきたキャリアバランスの弓代表と赤堀取締役に、リストラ宣告をされても明るい未来を切り開いていくための処方箋を伺う。
M&Aが合理化を目的に行われる場合などは、希望退職を募るなど、社内でリストラが実施されることも想定される。赤堀氏は、リストラを宣告された人々が陥る心境について次のように語る。
「次どうするか、といったことを考える前にまず、リストラ対象とされたことに傷付き、落ち込んでしまう人が圧倒的です。これまで高い帰属意識を持って働いていたのに、『裏切られた』『捨てられた』と思い、大きな喪失感に悩まされることもしばしばです。同時に男性は家庭での役割を果たせなくなったと落ち込む人も多いようです」。
それに対し、第1回でも触れた「仕事観と人生観」についてあらかじめ整理しておくことが大事だと弓代表は指摘する。
加えて、家族ともこの仕事観と人生観について話しておくことの重要性を説く。
「家族は、最大の応援者になってもらうべき存在。そのためにも、日ごろから、仕事観や人生観を共有しておく必要があります」(弓代表)。
しかし、現実には給与や住宅手当などの諸手当、ボーナスなど、金銭面しか共有していない夫婦も多いだろう。このような状態だと、リストラ実施に至らないまでも、M&Aに直面した際に家庭内不和が生じやすいという。
というのも、M&Aが実施されると、本社の移転に伴う転勤や、手当などの条件面の変更も起こりやすいからだ。転勤で引っ越すのか、そうすると子供の学校はどうするのか。いままでの手当はなくなるのか、給与やボーナスはどれだけ減るのか、ローン返済への影響はないか……、環境変化に対し自身も不安な中、家庭で毎日のようにこのような心配をぶつけられれば、憂鬱になってもしかたがない。
「M&Aなどをきっかけとした社内環境の変化に直面すると、最初にライフ不調を起こす人は多い。ライフ不調はワーク不調につながる。だからこそ、ライフを支える家族とのコミュニケーションを大事にしてほしいです」(弓代表)。
会社では、ライフのサポートまではしていないことがほとんどだ。M&Aが実施された!さらには、リストラ宣告!となってからでは遅い。日頃から条件面だけでなく、仕事観や人生観を家族と共有しておくことが重要なのだ。
もう1つ、リストラという苦境に立たされたとき、立ち直れないほどの大きな落ち込みを回避するために、「自分はいつでも転職できる」という自信を持っておくことは大いに役に立つだろう。とはいっても、そのような自信を持つにはどのようにすればいいのだろうか。
弓代表は転職に必要なスキルを、「トランスファラブルスキル」と「テクニカルスキル」の2つに分けて説明する。テクニカルスキルは、英語や資格といった従来から言われてきたスキルのことだ。一方のトランスファラブルスキルとは、コミュニケーション能力やマネジメント能力といった、どこにでも転用可能なスキルのことで、最近とくに重要視されているという。
そして、このトランスファラブルスキルといわれるコミュニケーションやマネジメント能力の身につけ方について、「日々の仕事を通じて獲得していくことが望ましいです。また、周囲にいる、これらの能力に優れている人をモデリング(模倣)することが獲得への近道ではないでしょうか」とアドバイスする。一方、テクニカルスキルももちろん無駄になるわけではないと続ける。
「資格など目に見えるものがあれば、自信につながります。難関資格でなくてもいいので、自分なりの取得目標を決めて、それを達成すること自体に意義があると思います」(弓代表)。
そして、M&Aなどで変化に直面した人々に対し、仕事観と人生観を家族と共有し、自分自身への信頼を持つことで、周囲の変化に対して前向きに捉えてほしいと、次のように願いを語った。
「私たちキャリアコンサルタントは、1人ひとりの可能性を信じています。たとえリストラとなったとしても、これまでやってきたことは無駄だった、自分はダメな人間なんだと思わずに、ほんの1%でもプラスの気持ちでスタートしてほしいです」(弓代表)。
以上、本記事では、M&Aで従業員が直面する可能性のある、転職判断、社内抗争、リストラへの処方箋を取り上げてきた。
これらは、日頃の心がけが大事であるとともに、M&Aが起こった際でなくても、役に立ちそうだ。一会社員としても絶え間ない変化にさらされている現代、自身の明るいキャリアと会社生活のために参考としていただければ幸いである。
取材・文:M&A Online編集部
前回までの記事(バックナンバー)
【キャリア危機への処方箋(1)】M&Aで社内は大混乱。賢いビジネスパーソンは転職すべき?
【キャリア危機への処方箋(2)】「正論で反論」は逆効果。社内抗争をうまく切り抜けるには?