日本政府が増税してまで導入を目指している「敵基地攻撃能力」に思わぬ逆風が吹いてきた。ウクライナが旧ソ連製の無人機でロシア南部の空軍基地を爆撃。ウクライナ本土を攻撃するロシア軍爆撃機の破壊を狙ったもので、まさに日本が検討している自衛のための「敵基地攻撃」だ。しかし、ウクライナを支援している米国からは意外な反応が返ってきた。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官が「ウクライナにロシア攻撃を奨励しない」と表明したのだ。その代わり米国は迎撃ミサイル「パトリオット」を供与し、ウクライナを「専守防衛」へ誘導している。その真意は米国がロシア本土攻撃に関与したとの疑惑を払拭するため。そして、ロシアを刺激してウクライナ紛争が激化するのを防ぐためだ。
確かに自衛のための敵基地攻撃は「正論」だが、それで紛争が泥沼化しては支援する欧米諸国が困る。ウクライナ紛争に伴うエネルギー危機で、欧州は厳しい冬を乗り切るのに苦労している。エネルギー価格の高騰は、米国でも激しいインフレを引き起こす要因の一つだ。欧米諸国にとって、紛争の長期化につながりかねないウクライナのロシア本土攻撃は好ましくない。
そうなると日本での「敵基地攻撃能力」の実効性も怪しくなる。米国は自国製の兵器を売り込めるとあって「抑止力」としての敵基地攻撃能力の整備は認めているが、いざ「有事」となった場合には日本の独自判断による他国への攻撃を許さないだろう。
日本政府が米国に敵基地攻撃を打診したところで、世界第2位の経済大国で米国としては最大の貿易相手国である中国本土の敵基地攻撃には消極的になるはずだ。それどころか北朝鮮に対してすら、日本による基地攻撃を認めない可能性すらある。金正恩最高指導者の号令一つで暴走しかねない北朝鮮軍による核兵器の使用を懸念するからだ。
実際にロシア軍から1年近く本土侵略を受けているウクライナに対してですら、米国は敵基地攻撃を牽制した。日本が「敵基地攻撃能力」を利用できるのは、米国が本格的な参戦を決意し、その「補完戦力」として利用される時だけだろう。
文:M&A Online編集部
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