数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
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『いますぐサラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』三戸 政和 著/講談社α新書
本書は「個人がすでにある企業を買う」という生き方を提示した三戸政和氏の著書『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』の最新作。前作の提言はそのままに、小さな会社を買うべきだと説く。とある会社の事業を承継し、脱サラした男性を例に、前作からの5年でスモールM&Aの環境が大きく変わり、会社を買うことが容易になったと切り出して話がスタートする。
その環境の変化として、いくつかのポイントが示される。まずは企業を買う際に、著者が最大の障壁とみなしていた、経営者保証の問題がなくなりつつあること。中小企業の経営者が金融機関からの借入金の連帯保証になるのが経営者保証で、その会社の後継者も経営者保証が求められることがあり、それが事業承継の足かせになっていたという。ほかにも、日本政策金融公庫の特例融資などの活用で資金調達が容易になったこと、多数のスモールM&Aのマッチングサイトの誕生と日本の各地での事業承継・引き継ぎ支援センターの設置がポイントとして挙げられている。
本書では、タイトルの「いますぐ」の言葉どおり、今こそ会社の買い時であるとも著者は説く。目下、スモールM&Aは売り手が多く買い手が少ない供給過多の状況であり、まさに”買い手市場である”と断言。先々は売り手と買い手のバランスが逆転していくとみており、買うなら今だと強調するのだ。そうした著者の言に耳を傾けると、何の気なしに読み始めた者でさえ、会社を買ってみようかと気分が乗ってくる。
秀逸なのは、読者の不安に先回りして答えるところだ。買えても「自分に経営などできるのか」という不安を抱く人もいるはず。それを先回りしたかのように「大手・中堅企業のサラリーマンなら、中小企業の社長は務まる」と断言。その理由について1章分を割いて述べられていくのだ。
通読してみて、人生の選択肢として、会社を買うのは"アリ"だと思わせられる。そして、それが今が最適だということもわかる。起業を志す人から、漠然と会社経営に憧れを抱く人まで、手始めにはもってこい一冊だろう。
なお、本書後半は会社の探し方から一般的なM&Aプロセスの解説などハウツー要素が強くなる。より深く理解するために、いくつか他の書籍にあたる必要があるが、スモールM&Aに踏み込んだ解説も多く、そこはしっかり目を通しておきたいところだ。(2023年8月発売)
文:M&A Online
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