金融緩和見直しで「マンション暴落」が起こっても、庶民の手には届かない

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金利上昇で首都圏のマンション販売に打撃が…(写真はイメージ)

「首相周辺も寝耳の水だった」と言われる日本銀行の金融緩和見直し。金利上昇に伴い、市中の余剰資金が都市部の高級マンションに流れ込む動きが止まり、「青天井」だった都心のマンション価格が下落する可能性も高まった。都心のマンションは再び「手に届く物件」になるのか?

新築マンション価格の値下がりは必至

20日はマンションなど不動産の販売低迷を懸念して、三井不動産<8801>や三菱地所<8802>、住友不動産<8830>、東急不動産ホールディングス(HD)<3289>など不動産株が全面安の展開に。すでに業界で「予兆」はあった。

不動産経済研究所が12月19日に発表した11月の首都圏1都3県の新築マンション1戸あたりの平均発売価格が前年同月比1.4%減の6035万円に下落したのだ。東京23区は同7.5%増、埼玉県は同0.2%増と値上がりしたものの、神奈川県は3.3%減、千葉県は10.8%減に値下がりしている。

問題は販売の落ち込みだ。同月の発売戸数は同47.4%減となり、契約率も同10.5ポイント減の69.4%と「好調」の最低ラインとなる70%を割り込んだ。売れなければ価格が下落するのは当然。現在は値上がり続けている東京23区や埼玉県のマンションも、遠からず値下がりに転じる可能性が高い。

東京23区では平均8530万円と庶民の手には届かなくなった新築マンションだが、暴落に近い値下がりもあるかもしれない。これまで資材や人件費の高騰で値上がりしてきたとはいえ、売れなくなれば不動産会社も赤字覚悟の「投げ売り」で早期に手仕舞いするだろう。

消費者は不動産価格が高騰している時は買い急ぐが、値下がり局面に入ると人生最大の高額商品だけに「もっと安くなるのではないか」と一転して買い渋る。手仕舞いに乗り遅れれば、不動産会社は「不良物件」を抱え込み、一歩間違えれば経営破綻の憂き目にあう。

値下がりしてもマンションに手が届かない

では、マンション市場が一転して「買い手市場」になれば、消費者にとっては「お買い得」になるのだろうか。一部の消費者にとっては「イエス」、大部分の消費者にとっては「ノー」だ。例えば金利上昇で販売不振に陥った結果、東京23区で平均8530万円の新築マンション相場が同5000万円まで値下がりしたとしよう。

実際、現在の東京都中央区の平均相場は68.98平方メートルで8004万円となっているが、マンション不況だった2004年当時は70平方メートル超の新築マンションが4000万円台で販売されていた。この程度の値下がりは十分にあり得る。

マンション暴落で文句なしに「お買い得」になるのは、即金で全額支払える富裕層だ。しかし、大部分の消費者は住宅ローンを組むことになるだろう。頭金なし、35年ローンで5000万円のマンションを購入した場合、月々の支払いは年利0.65%だと13万3000円(うち金利分1万4000円)だ。

これが、1%上がって1.65%になると15万7000円(同3万8000円)、3%上がって同3.65%になると21万1000円(同9万2000円)に跳ね上がる。5%に達すると25万2000円(同13万3000円)と、金利が元金を上回る。

長期固定金利住宅ローン「フラット35」で、住宅ローン返済負担率は年収の35%だ(年収400万円以上の場合)。つまり、年間返済額が年収の35%以下に収まる物件しか購入できない。

そうなると5000万円のマンションを購入できる年収は金利0.65%では465万円以上だが、同1.65%では538万円以上、同3.65%でが723万円以上、同5%だと864万円以上と、利上げによって確実にハードルは高くなる。

東京都心では1億円の新築マンションも珍しくないが、同0.65%ならば年収909万円で購入可能だ。一般のサラリーマンでも、共稼ぎ家庭なら手が届く。これが都心の高級マンション販売が好調な理由でもある。

ところが5%になると、1732万円の年収がないと融資を受けられない。よほどの高給取りでなければ、手を出せなくなる。大部分の消費者にとっては、金利引き上げによるマンション価格の値下がりは「お買い得」とは言えないのだ。

文:M&A Online編集部

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