損害保険の不正請求をはじめとする一連の不祥事で業績が急速に悪化しているビッグモーター(東京都港区)が、事業譲渡に向けて動き出した。デロイトトーマツ子会社のデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーが再生計画の策定に入ったのだ。いよいよ売却に向けた「第一歩」を踏み出した。
同社はM&Aアドバイザリー、デューディリジェンス、バリュエーションなどのM&A関連業務で強みを発揮するフィナンシャル・アドバイザリー・サービス(FAS)を手がけ、KPMGやプライスウォーターハウスクーパース(PwC)、アーンスト・アンド・ヤング(EY)と並ぶ「BIG4 FAS」の一画を占める。
M&Aで豊富な実績を残しており、近鉄グループホールディングスによる近鉄エクスプレス株のTOB(株式公開買い付け)やNTTによるNTTドコモのTOBでの完全子会社化、ヤマダホールディングスによる大塚家具の株式交換での完全子会社化といった大型案件に関わってきた。買われる側の企業への支援案件も多く、「身売り」を検討しているビッグモーターが最適のFASと判断したようだ。
問題は実際に売却できるかどうかだ。M&A仲介大手ストライクの荒井邦彦社長は「財務内容が明らかにされていないので判断はできないが、中古車の在庫や自社所有の店舗などの資産はあり、事業譲渡は可能だろう」と見る。
ただし不祥事による企業イメージの低下が著しく、それに伴って販売不振に陥るなど企業価値の毀損(きそん)は大きい。そのため「事業再生型M&Aの形を取らざるをえないだろう。事業再生ADR(裁判以外の紛争解決)などで債権放棄が可能であれば経営再建までの期間が短縮できるので、買い手は探しやすくなる」(荒井社長)という。
もっとも事業再生型M&Aとなると、売却価格は安くなる。2019年のベアリング・プライベート・エクイティ・アジアグループによるパイオニア(直近売上高3654億円)の買収は総額約1020億円、2021年の興和によるワタベウェディング(同134億円)の買収は同20億円、2023年の企業再生ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズと医薬品卸のメディパルホールディングスによる日医工(同1790億円)の買収は同200億円にとどまっている。
ビッグモーター(同7000億円)の売却額も同様の水準になるものとみられ、700億〜1700億円程度で交渉が進められる可能性が高い。交渉が長引いて業績悪化による資金ショートが現実味を帯びると、「買収するよりも、倒産した後にスポンサーとして名のりを上げる方が安上がり」との思惑が広がる。ビッグモーターにとっては「短期決戦」しかない。
文:M&A Online
関連記事はこちら
・「いきなり地元企業と言われても…」大炎上中のビッグモーターに困惑の声
・追い詰められたビッグモーター、打開策は「事業譲渡」しかない