米マイクロソフトが2021年8月2日、パソコンOSで最もシェアが高い「ウィンドウズ」をクラウドサービスで、アップルのタブレット端末「iPad」シリーズ向けに提供した。これは米アップルにとって大きな痛手となる。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックでリモートワークが拡大し、その端末として安価で持ち運びがしやすいiPadの導入が進んでいるからだ。それ以前からアップルはiPadでビジネス需要を取り込もうとしていた。
2020年にパソコンの「Mac」シリーズのCPUをインテル製から、「iPhone」シリーズやiPadシリーズに搭載しているARMアーキテクチャーの「M1」シリーズに変更している。これはパソコンOSでは圧倒的なシェアを持つウィンドウズにmacOSでは太刀打ちできないため、iPadで法人向けのシェアを伸ばす戦略だった。
macOSの最新版「Big Sur」はM1向けに最適化されている。つまり、MacシリーズのアーキテクチャーをiPadやiPhoneに「寄せてきた」わけだ。M1とBig Surを搭載した新型Macシリーズでは、iPadのアプリが稼働する。しかし、Macシリーズと同等の機能を持つ最新の「iPad Pro」では十分に動くはずのmacOSは解禁されていない。
アップルのグレッグ・ジョスウィアック製品マーケティング担当副社長とジョン・テルヌスハードウエアエンジニアリング担当副社長は、2021年4月に掲載された英ニュースサイトのインディペンデントのインタビューで「iPadとMacを融合して欲しいとの声と、別物だという声の両方がある」と、なんとも煮え切らない態度を示している。
その間隙を突くように、マイクロソフトがiPadでも利用できるクラウドサービスの「ウィンドウズ 365」を投入したのだ。企業向けのサービスで、アップルの法人需要を取り込もうすとする意欲が見て取れる。
会社のウィンドウズパソコンで作業し、自宅や外出先のiPadで続きをやるといった具合にシームレスな環境を実現できる。「ウィンドウズ 365」は新旧のMacシリーズでも利用できるため、アップル製品を土台にウィンドウズ環境を拡大することが可能だ。
アップルはハードウエアよりもソフトウエアで収益を上げる方向へシフトしている。「iPadでウィンドウズが使える」ことでハードの販売が伸びても、アプリなどのソフトをマイクロソフトに奪われるようでは話にならない。
アップルとしてはiPadで「他社のウィンドウズは使えるが、自社のmacOSは使えない」という状況を長引かせるわけにはいかないだろう。近いうちにiPadシリーズでの「macOS解禁」に踏み切るはずだ。ハードの互換性には問題がないのだから。
それにしても、法人需要で圧倒的なシェアを持つウィンドウズに先手を打たれたのは痛かった。ビジネスマンのiPadではiPadOSとウィンドウズOSを使い分けることになるだろうが、まとまった量が売れ、価格が高くても採用されやすい法人向けのアプリをウィンドウズ陣営に独占されてはたまらない。ちょとした判断の遅れが、アップルの法人ビジネスに暗い影を落としそうだ。
文:M&A Online編集部
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