【M&A仲介業の平均年収1800万円】高収入には「理由」がある

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※画像はイメージ Photo by PAKUTASO

年収が高い上場企業ランキングの上位に必ず食い込むのがM&A仲介やファイナンシャル・アドバイザリーの会社。特に平均年収2400万円のM&Aキャピタルパートナーズ<6080>はトップ3の常連です。

この記事では、M&A仲介の仕事がどうしてこれほど高収入なのか。その理由を解説しながら、業務内容や各社の比較を行うものです。就職を希望する学生や、M&A業界に興味を持つ社会人向けの記事となります。


複数案件をかけもちするM&A仲介のコンサルタント

M&Aの仲介や交渉役(FA/ファイナンシャル・アドバイザリー)を行う主な企業の年収は以下の通りです。

※生涯年収は平均年収を60歳までもらえたと仮定した数値です。

業種 企業名 平均年収 生涯年収 平均年齢
M&A仲介 M&Aキャピタルパートナーズ 2478万円 9億4100万円 31.3歳
M&A仲介 ストライク 1539万円 5億8400万円 36.2歳
M&A仲介 日本M&Aセンター 1414万円 5億3700万円 35.7歳
FA GCA 2063万円 7億8300万円 37.9歳
FA フロンティア・マネジメント 1398万円 5億3100万円 38.5歳

有価証券報告書をもとに筆者作成

上場企業の平均年収が606万円、日本全体が432万円です。M&Aに関連する仕事が、桁違いに高額な報酬を得ていることがわかります。

その理由をM&A仲介の場合について説明します。

理由は2つあります。1つは、企業買収成立時に動く金額が大きく、多数の案件が国内にあることです。M&A仲介は1社あたり年間数十から数百件を取り扱っていますが、1つの案件で数千万円から数十億円規模になります。仲介会社はそこから3~5%の手数料をとっています。企業によりますが、成功報酬以外にも着手金や中間金がおよそ200万円ほど発生します。

日本の中小企業経営者の平均年齢は今や66歳(中小企業庁:深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命)。後継者に悩む中小企業の経営者は多く、承継目的で売却を望むケースは多くなっています。M&A仲介の会社にとって、現在の日本は追い風が吹いているのです。

要するに、M&A仲介は有卦に入っているのです。

理由の2つめは高利益体質であるということです。M&Aの仕事は案件を受け持つコンサルタントの技量・能力や経験に強く依存しています。原価はほとんどが人件費です。例えば、日本M&Aセンター<2127>は売上高に占める原価率は37.1%。そのうち59%が人件費となっています。

次に、M&A仲介とFA(ファイナンシャル・アドバイザリー)の仕事の違いを説明します。



「仲介」と「FA」の違いは

M&A仲介は売り手と買い手の間をつなぐ仕事。一方、FAは売り手企業、買い手企業のどちらかについて、交渉窓口となる仕事です。

仲介の場合は同じ会社が売り手と買い手の間に入るので、スピード感があり、スムーズに進むケースが多いのです。

仲介会社は双方の会社から手数料が得られるメリットがあります。5億円で手数料5%の取引だった場合を想定しましょう。買い手側から5%の2500万円、売り手側から5%の2500万円が入るのです。

M&Aの手数料はレーマン方式と呼ばれる一定のルールがあります。M&Aの規模が大きくなるにつれて報酬料率が低下する仕組みです。仲介会社によって幅がありますが、最低報酬は500万~3000万円以上とみられます。一例を示してみます。

取引額 手数料率
取引金額5億円まで 5%
取引額10億円から50億円まで 3%
取引額50億円から100億円まで 2%
取引額100億円以上 1%

算出基準となる取引額としては「移動総資産」(株式価格+負債総額)、「企業価値」(株式価格+有利子負債)などさまざまなケースがあります。

数百億円規模の買収の場合、スピード感よりもいかに納得した条件が売買が成立するかが重要になります。売り手はできるだけ会社を高く売りたい、買い手はできるだけ安く買いたいと思っているからです。

FAはクライアント企業が納得する条件を引き出す役目を担っているのです。FAは単純にM&Aの窓口になるだけでなく、クライアントや買収先企業の財務状況などを勘案しながら、買収断念のアドバイスを行うこともあります。

M&Aに関連する仕事は相当な知識レベルが要求されます。

  • ・会計(個別・連結会計、IFRSPPAなど)
  • ・税務(組織再編税制、連結納税、グループ法人税含む)
  • ・財務(バリュエーション、DDなど)
  • ・法務(契約、法規制、総会運営、ディスクロージャーコーポレートガバナンスなど)
  • ・企業経営(戦略、分析、調査など)
  • ・営業力(コミュニケーション能力、交渉力など)

                

M&Aのコンサルタントは、事業会社の経営者や財務責任者、金融機関などと円滑なコミュニケーションがとれなければなりません。それを少ない人数で行うので、一人当たりにかかる負担は大きく、責任重大な仕事になります。

仲介業の場合は営業力が必須スキルとなります。ビジネスのあらゆる領域の専門知識を要求され、コミュニケーション能力が問われるのです。専門分野に特化するFAとは、また違った難しさがあります。

さらに仲介、FAともに巨額の買収金額が絡んでいるので、ミスは許されません。企業が多くの人の雇用を守っていることも考えると、社員の人生をも左右する仕事です。

高額報酬の裏には、こうした高いスキルとともに業務内容の厳しさがあるのです。

もっとも、ベースとなる給与がそれほど高いわけではありません。成果報酬型の給与体系となっているため、案件成立の多寡によって収入が左右されます。案件成立がゼロだったりすると、浮かばれない世界です。また、管理部門など一般事務セクションは高額報酬とは無縁です。



年間770案件を手掛ける日本M&Aセンター

M&Aの仲介とFAの違いを、数値をもとに比べてみます。

少ない人数で高額取引を決めているM&A仲介やFAは、従業員1人当たりでどれだけ稼いでいるのでしょうか。

業種 企業名 従業員数 1人当たりの売上高 1人当たりの営業利益
M&A仲介 M&Aキャピタルパートナーズ 143名 5600万円 2200万円
M&A仲介 ストライク 96名 3800万円 1400万円
M&A仲介 日本M&Aセンター 451名 6300万円 2700万円
FA GCA 426名 6200万円 800万円
FA フロンティア・マネジメント
165名 2800万円 400万円

有価証券報告書をもとに筆者作成

仲介に比べ、FAは1人当たりの利益が小さくなっています。これは、仲介会社は多くの案件を少ない人数で回している一方、FAは大型案件を複数のチームで動かしているので、原価(人件費)が余分にかかっているのです。そこが仲介とFAの大きな違いとなります。

売上高284億6300万円の日本M&Aセンターと、266億9000万円のGCA<2174>で比較してみましょう。

企業名 案件数 1案件当たりの売上高 1人当たりの案件数
日本M&Aセンター 770件 3600万円 1.7件
GCA 145件 1億8400万円 0.3件

※案件数は直近通期の成約件数。有価証券報告書をもとに筆者作成

日本M&Aセンターは年間770の案件を成立させています。従業員数は451人なので、1人が1.7件を見ている計算になります。一方、GCAは426人で145件です。3人で1つの案件を成立させていることになります。

FAは大規模案件を取り扱ってきた専門家の集まりです。高報酬の知識集団を総動員して、巨額のM&A案件を扱っている姿が浮かんできます。

M&A仲介もFAも間違いなく激務です。広範囲の知識量を求められるだけでなく、その深さも要求されるからです。経営と現場の両方を知り、さらに競合などの業界動向にも強くなければなりません。場合によっては外国語も必要となります。

調査や分析、書類の整理に膨大な時間がとられます。それを極めて限られた人数で行わなければなりません。

そして何より、職務に忠実で誠実な人物であることが求められます。仕事に忙殺されて、クライアント企業の信頼を失ったらすべてが水泡に帰します。M&Aはビジネスの総合格闘技と言われます。あらゆるスキルや知識、性質のすべてを投げ込んで行う仕事といえます。

結果として、それが高収入へと結びついているのです。

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