成城石井をローソンに売却した投資ファンド・丸の内キャピタルとは

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高利益体質の成城石井は魅力的な案件だった

丸の内キャピタル(本社:東京都千代田区)は、三菱商事<8058>と三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306>が2008年に共同で出資して設立した投資ファンド。現在の出資比率は三菱商事が85.1%、三菱UFJ銀行が14.9%となっています。日本国内で圧倒的な信用力を持つ2社のネットワークで、タカラトミー<7867>、ジョイフル本田<3191>、成城石井(本社:神奈川県横浜市)など名だたる企業に投資をしてきました。2020年2月にはコインランドリーやクリーニング事業者向けの洗濯・乾燥機などの製造販売を行うTOSEI(本社:東京都品川区)の全株式を取得しています。

丸の内キャピタルとは、どのような投資ファンドなのでしょうか? この記事では以下の情報が得られます。

・丸の内キャピタルの概要
・投資実績
・成城石井のM&Aの詳細

産業革新機構の創業メンバー朝倉陽保氏が社長に

丸の内キャピタルは、もともと「丸の内キャピタル株式会社」として設立されましたが、この会社は2017年に解散しています。立ち上げ済みだったファンドは新設した「株式会社丸の内キャピタル」が従業員も含めて引き継ぎました。その際に代表取締役社長に就任したのが朝倉陽保氏です。

朝倉氏は三菱商事に入社後、半導体やヘルスケアなどの分野で事業開発やM&Aに従事。2001年からはカーライル・グループ(本社:ワシントンD.C)にて、日本を投資対象とするバイアウト部門の投資責任者、グロースキャピタル部門の日本代表を歴任しました。そのときのファンド規模はそれぞれ500億円、680百万ドルと大規模なもの。朝倉氏は事業開発や投資、M&Aのスペシャリストの道を歩んできました。

2009年には官民ファンドの産業革新機構の創業メンバーとして専務取締役に就任しています。そして2016年3月に丸の内キャピタルに参画しました。

在籍する他のメンバーも、三菱商事や三菱UFJ銀行の出身者が多くなっています。

業績は直近の純利益が6億円と堅調です。

■丸の内キャピタル業績推移(百万円)

2017年3月期 2018年3月期 2019年3月期
純利益 587 736 607

決算公告をもとに筆者作成

投資先は小売、外食、ペット用品、業務用機械など多岐に渡っています。

■1号ファンド

企業名 事業内容 投資時期 投資タイプ 出資比率 投資背景 エグジット時期
株式会社タカラトミー 玩具・カードゲーム等の企画、製造および販売 2009年6月 第三者割当による引受け 15% 自己株式の第三者割当により普通株式を取得。連結経営及びコスト削減・業務効率化による収益力の改善、グローバル展開の加速の実行支援を行う。 2015年5月
株式会社ジョイフル本田 関東地方にて大規模ホームセンター「ジョイフル本田」を展開 2009年10月 普通株式の第三者割当による引受け 31.4%      第三者割当増資の引受け。将来の株式公開に向けたコーポレート・ガバナンスの強化、企業価値向上の実現を支援。 2016年3月
株式会社山本製作所 ファインブランキング技術による自動車部品製造 2011年2月 事業承継 - オーナー持分の譲り受け。海外展開の強化、コーポレート・ガバナンスの強化を行う。 2015年2月
株式会社成城石井 食料品専門スーパーマーケット事業及び卸売 2011年5月 カーブアウト 100% 全事業の譲り受け。現在の成長路線を継続しつつ、丸の内キャピタルが有する事業ネットワーク・ノウハウを活用し、企業価値の更なる向上を図る。 2014年10月

■2号ファンド

企業名 事業内容 投資時期 投資タイプ 出資比率 投資背景 エグジット時期
トライス株式会社 カーボンブラシ、カーボンコンミテータ等の自動車用電装部品の製造・販売 2017年2月 事業承継 100% 自動車業界の世界市場は今後も新興国の成長が見込まれているため、トライスの築き上げた強みや企業文化を引き継ぎ、技術力のシェアを図る。また、取引先との関係を維持・強化、トライスの長期的な企業価値創造を支援していく。 -
株式会社エムアイフードスタイル スーパーマーケットおよび食品製造・卸売り等 2018年4月 カーブアウト 66% - -
株式会社大貴 ペット用品等の開発及び製造販売 2018年7月 成長支援 100% - -
株式会社ベストプロジェクト セールスプロモーション及びマーケティング支援サービス 2018年11月 事業承継 100% マーケティングの本質に根差した企画力を活かして既存顧客向けに質の高いサービス提供 を続けるとともに、環境変化に対応したマーケティング支援サービスの戦略的な拡充を続け、顧客基 盤の拡大と事業の更なる成長を促す。 -
株式会社サイプレス レストラン・フードコート運営事業 2019年9月 成長支援 - - -
株式会社グラニフ アパレル製品の企画、製造、販売等 2019年12月 成長支援 - 国内における更なる店舗展開や EC 事業の拡大により、顧客基盤の拡大と事業の更なる成長を促す。 -
株式会社TOSEI 業務用クリーニング機器および真空包装機の製造販売 2020年1月 成長支援 100% 世界で初めて開発したコインランドリー 用洗濯乾燥機については、海外からの引き合いも多く、今後の海外での市場拡大も期待される。 -

※ホームページをもとに筆者作成

よく知られているところでは、2019年12月に投資をした、グラニフ(本社:東京都渋谷区)です。グラニフは「Design T shirts Store Graniph」ブランドでTシャツショップを全国120店舗展開しています。

グラニフは、日本M&Aセンター<2127>の仲介の下、ベンチャーキャピタルのジャフコ<8595>が2016年7月に買収していました。その際、代表取締役としてディーゼルジャパン(本社:大阪府大阪市)の取締役社長だった中山秀人氏を招へいしています。ジャフコの支援によって店舗数は93から120に拡大。その後、丸の内キャピタルに譲渡することとなりました。

ドタバタ劇の末に550億円でローソンへと売却された成城石井

成城石井は売却と買収を繰り返してきた歴史があります。それは2004年に始まりました。

最初に手をつけたのが、焼肉「牛角」や居酒屋「土間土間」を運営するレックス・ホールディングス(後のレインズインターナショナルで現在はコロワイド<7616>の傘下)。レックスは創業家から65億円で67%の株式を取得、2006年に完全子会社化しました。富裕層がターゲットの成城石井は営業利益率が5%と高く(スーパーマーケットの平均営業利益率は1.04%:全国スーパーマーケット協会年次統計調査より)、固定ファンが多いことから注目を集めていました。

しかし、成城石井を手に入れたレックスは、2003年に発生したBSEで主力の「牛角」が失速していました。2006年に投資ファンド・アドバンテッジパートナーズ(本社:東京都港区)を迎え入れて株式を非公開化。アドバンテッジの支援で事業再編に着手したレックスは、2009年に業績不振だったコンビニ7位のエーエム・ピーエム・ジャパン(本社:東京都港区)を3位のファミリーマート<8028>に売却。そして2011年に成城石井を丸の内キャピタルに売却することを決めました。

丸の内キャピタルへの売却額は420億円だったとみられています。

ここでも成城石井の買収合戦は過熱しました。入札にはオリックス<8591>、米投資ファンド・ベイン・キャピタル(本社:ボストン)、シティグループのVC部門出身者が立ち上げたCVCキャピタル・パートナーズ(本社:ルクセンブルク)が参加しました。400億円台の激しい攻防が続いた末、丸の内キャピタルが手中に収めました。

丸の内キャピタルが買収した成城石井1期目の2011年12月期(2月11日~12月31日まで)の純利益は2億1700万円。6期目となる2017年2月期の純利益は45億9700万円です。直近の2020年2月期の純利益は53億4800万円。丸の内キャピタルの支援後、目覚ましい業績改善がなされた模様です。

丸の内キャピタルは、2014年5月に成城石井を売却する意向を小売り各社に表明。水面下の交渉が続いていました。買収にはイオン<8267>、三越伊勢丹ホールディングス<3099>、ローソン<2651>の3社が名乗りを上げました。イオンは価格面で折り合いがつかずに早々と脱落。2社が参加する入札では、500億円とほぼ同額が提示されました。結局、金額の折り合いがつかずに合意には至りませんでした。

ここで三越伊勢丹はローソンに共同買収する提案をします。三越伊勢丹は債務超過寸前の高級スーパー「クイーンズ伊勢丹」に頭を悩ませており、成城石井の持つノウハウで立て直しを図ろうとしていました。しかし、共同買収の提案は出資比率の折り合いがつかずに消滅。ローソンが550億円を提示して丸の内キャピタルとの合意が得られました。

なお、三越伊勢丹の悩みの種だった「クイーンズ伊勢丹」は、2018年に丸の内キャピタルが買収しました。現在、再建の道を歩んでいます。

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