EVに「乗り遅れる」自動車メーカーが使う三つのキーワード

alt
EVシフトに消極的なメーカーが使う「三つのキーワード」とは…(写真はイメージ)

脱ガソリン・脱ディーゼルの流れがはっきりしてきた。欧州を「震源地」に、中国や米国そして日本でも電気自動車(EV)化へ向けた動きが加速している。しかし、まだ不透明な部分もあり、自動車メーカーのEVへの対応に温度差があるのも事実。実は「EVシフト」に消極的なメーカーが好んで使う三つの「キーワード」がある。

追い詰められるガソリン車

欧州連合(EU)はハイブリッド車(HV)を含むガソリン・ディーゼルエンジン搭載車の新車販売を2035年に禁止する方針を決めた。米国ではカリフォルニア州が同年までにガソリン車の新車販売を禁止し、ニューヨークを含む12州の州知事らも賛同して全米での販売禁止を求めている。

世界最大の自動車市場である中国は、同年までに新車販売のすべてをEVなどのゼロ・エミッション車(ZEV)や、HVにする計画だ。が、世界で最もEVシフトが進んでいる市場でもあり、いずれHVの販売も禁止されるのではないかと見られている。

日本も菅義偉政権が、2030年代前半にガソリン車の販売停止を目標に掲げている。EVシフトは避けられない流れだが、それに乗り遅れそうな自動車メーカーも少なくない。そうしたメーカーはEVシフトを食い止めようと、HVを含むガソリン車の生き残りにつながる主張を繰り広げている。

(1) 燃料電池車(FCV)

そうした主張の根幹となる一つ目のキーワードが「燃料電池車(FCV)」だ。FCVもEVではないか?と怪訝(けげん)に思われるかもしれないが、FCV支持メーカーの主張は明快だ。「EVは電池性能に限界があり、航続距離は短く充電時間が長い。ZEVを本格的に普及させるには、FCVしか選択肢はない」というもの。

しかし、FCVに搭載する燃料電池の進化は、EVの車載電池よりも遅い。さらには水素ステーションのような燃料供給インフラは、EVの充電スタンドよりもはるかに少ない。EVよりもFCVを支持するメーカーも、それは承知の上だ。むしろFCVの普及が進まないからこそ、ガソリン車を延命できる。

同一ルートを走行する大型のバス・トラックは車両基地に水素ステーションがあればいいので、早期の実用化も可能だろう。ただ、現時点での水素価格はディーゼルエンジン用の軽油よりも高いのが難点だ。

(2) 全固体電池

現在のリチウムイオン電池に代わるEV用電池として注目されているのが、全固体電池。全固体電池はリチウムイオン電池に比べて航続距離が最大2倍、わずか15分で全容量の80%を充電できるという。しかも、発火事故や電池の劣化も起こりにくい。

まさに「理想の電池」だが、抜群の性能も「実験室レベル」。量産時に同様の性能を実現できるかどうかは未知数だ。

現行の全固体電池で実用化しているのは、小型の電池だけなのが現状。EVを動かすような大型全固体電池の量産は当分先だ。全固体電池の実用化を待ってから、EVシフトを本格化しようとするメーカーは完全に出遅れるだろう。

(3) ライフサイクルアセスメント(LCA)

ライフサイクルアセスメント(LCA)とは、製品に必要な原料の採取から生産、製品が使用され、廃棄されるまでの全過程での環境負荷を定量的に評価する手法のこと。

EV自体は走行中に二酸化炭素(CO2)を排出しないが、車載電池の生産や充電用電力の発電などで大量に排出するから、LCAで見れば環境にやさしいわけではないという主張がある。ディーゼル車の生産比率が高い独フォルクスワーゲンが提唱して話題になった。

しかし、CO2を排出しない太陽光や風力といった再生可能エネルギー発電は、量産化による設置コスト低下で総電力に占めるシェアが上がりつつあり、EVのLCAでのCO2排出量は低下する見通しだ。

一方、ガソリン車やディーゼル車がLCAでEVを上回るためには、エネルギー変換効率を50%以上に引き上げる必要がある。現状ではディーゼル車が40%、ガソリン車が30%程度であり、実現は容易ではない。

技術革新に乗り遅れると「致命傷」に

HVを含むガソリン車・ディーゼル車が、現在も自動車産業の根幹を支えていることは間違いない。だが、技術革新の波はあっという間に押し寄せる。液晶テレビで世界を席巻した日本のテレビ産業も、世界に先駆けて開発した有機ELテレビでは量産化に出遅れて国産メーカーは全て撤退してしまった。HVで独走する国産車メーカーも、EVに乗り遅れると存亡にかかわる可能性がある。油断は禁物だ。

文:M&A Online編集部

関連記事はこちら
競争過熱の全固体電池、EV用は「期待はずれ」に終わるかも
トヨタ、五輪イベント中止で全固体電池「お披露目」はどうなる?