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振り込め詐欺の手口をリアルに描くクライムサスペンス『声/姿なき犯罪者』

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ⓒ 2021 CJ ENM Co., Ltd., SOOFILM ALL RIGHTS RESERVED

電話口で相手を言葉巧みに誘導し、金銭を騙し取る振り込め詐欺を題材にした韓国映画『声/姿なき犯罪者』が10月7日(金)から公開される。メガホンをとるキム・ソン、キム・ゴクの両監督ら製作陣が巨大組織による犯罪の手口、被害の現状、被害者の心理などを丹念に調べ上げただけに、犯罪の描写は極めてリアル。誰もが被害に遭う危険と隣り合わせにあることを実感させられる社会派のクライムサスペンス映画だ。

<あらすじ>

釜山の建設現場の従業員たちが振り込め詐欺の標的となり、多くの人々が大金を失った。現場の作業員として働くソジュン(ピョン・ヨハン)は、前職は刑事という異色の経歴を持つ。彼は愛する妻と同僚たちが騙し取られた30億ウォンを取り戻すため、振り込め詐欺犯の追跡を始める。

犯人の手がかりを掴み、中国のある建物へ侵入するソジュンだったが、そこでは組織化された巨大な詐欺集団が総責任者クァク(キム・ムヨル)の指示で毎日多額の振り込め詐欺を行うのを目の当たりにする。愕然とするソジュンだったが、300億ウォン規模の新たな詐欺計画を知り、元刑事の正義感に再び火が付き、独力で巨悪に挑む。

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実際の犯罪事例を再現

怖い映画である。振り込め詐欺と聞くと、子どものふりをしてお年寄りに電話をかけ、預貯金を騙し取る「オレオレ詐欺」のイメージが強い。しかし、本作で描かれる詐欺の対象は老若男女さまざまで、その手法は実に巧妙だ。

例えば若者を騙す詐欺では、一流企業の採用試験の最終段階まで残った就活生が狙われる。韓国においても一流企業への就職は狭き門のようで、詐欺グループが企業の採用担当を装って伝える「合格」の偽情報に就活生は親ともども舞い上がってしまい、言葉巧みに誘導されて指定口座にお金を振り込んでしまう。合格できるか不安で仕方がない就活生とその親の弱さに付け込む手口は巧妙かつ悪辣で、手法を変えれば誰もが詐欺のターゲットになりうるという、うすら寒い気持ちにさせられる。

こうした振り込め詐欺を可能にするのが、個人情報のリストである。企業の採用試験の応募者、高級マンションの購入申込者など、利用価値が高いリストが高額で売買され、実際の詐欺の現場で使われている実態が本作でも描かれている。

企画・製作のミン・ジンス氏は、「実際に振り込め詐欺で使用されている事例と最近の手口を調査し、なるべく現実に起こっている犯罪事例を映画に描き入れようとした」と振り返る。「中国にいるハッカーたちがどのように相手を騙すのかを、国内にいるホワイトハッカーを探し、取材をした」(ジンス氏)ほか、韓国の銀行関係者、金融監督院の振り込め詐欺の専任担当を取材し、関連する論文を読むなど、綿密な事前調査を徹底したという。

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詐欺集団の根城のセット

リアリティの追求はアクションシーンでも徹底されている。中国国内の詐欺グループの本拠地に潜入したソジュンの闘いは、本作のみどころだ。ソジュン役のピョン・ヨハンについて武術監督のチョン・ジェヒョンは、「これを俳優が実際にこなしたのかと思うほど、アクションをすべて本人がこなした。スタント的な要素もピョン・ヨハンがすべてやった」と語っている。

ピョン・ヨハンは、「ソジュンはヒーローのような存在ではなく、命を懸けて金を取り返さなければならない切実さ、壮絶さを見せたかった。そうした感情の一つ一つをアクションにも込めようと努力した」と話し、巨悪を相手に孤軍奮闘する主人公の感情がアクションにも溶け込むよう強く意識したことを明らかにした。

印象的なのは、詐欺グループの本拠地で闘うソジュンが、エレベーターが上下する狭い空間に飛び込み、側壁を腕力で登りながら、向かってくる敵を一人ずつ倒していく場面である。一人で何人もの敵を相手にする戦い方としてのリアリティに没入してしまう。そんなシーンである。

数十人の「掛け子」がずらりと並び、韓国に向けて詐欺電話を掛ける異様な風景も印象に残る。

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事前の調査では詐欺グループの本拠に関する情報や写真などは入手できなかったため、美術監督が想像を働かせてセットを作ったという。学校形式に並べられた机、そこに置かれた電話やパソコンと騙しの手口が書かれた詳細なマニュアル、騙し取った金額の合計を伝える電光掲示板…、そして、騙す相手が網にかかっていく様をまるでゲームのように楽しむ掛け子同士の会話。「欲望が消費として表現される巨大なショッピングセンターが廃墟と化している姿を思い浮かべた。その空間に新たにねじれた欲望がとりつき、犯罪へと繋がっていくような場所をイメージした」とイ・ナギョン美術監督は語っている。

想像で作った風景だが、このうえもないリアリティを感じさせる。

文:堀木三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)

<作品データ>
『声/姿なき犯罪者』
監督:キム・ソン&キム・ゴク
出演:ピョン・ヨハン、キム・ムヨル、キム・ヒウォン、パク・ミョンフン、イ・ジュヨン
2021/韓国/韓国語/109分/シネスコ/5.1ch/カラー/原題:보이스(ボイス)
配給:ツイン
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公式サイト:https://koe-voice.jp/
10月7日(金)新宿武蔵野館ほかにて全国順次ロードショー

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