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三木監督が語る『アキラとあきら』の見どころと伝えたいこと

※この記事は公開から1年以上経っています。
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©2022「アキラとあきら」製作委員会

『アキラとあきら』監督インタビュー

「あきら」の名前を持つ2人の若者が出会い、銀行員の矜持の違いから対立するものの、大きな壁に立ち向かっていく中で宿命が交差する。

8月26日に公開される映画『アキラとあきら』は「半沢直樹」シリーズなど数々のベストセラーを生み出してきた日本を代表する作家・池井戸潤の同名小説を原作としている。W主演の竹内涼真と横浜流星が主人公の「アキラ」と「あきら」を演じ、この夏、『今夜、世界からこの恋が消えても』『TANG タング』と公開作が続く三木孝浩監督がメガホンを取った。

公開を前に、本作ならではの見どころを三木孝浩監督に語ってもらった。

三木孝浩監督
三木孝浩監督 ©M&A Online編集部

意見の異なる人とどう関係性を築いていくのか

──原作は池井戸潤さんの小説です。お読みになっていかがでしたか

最初にWOWOWの青木プロデューサーからお話をいただき、原作を読みました。池井戸さんの映像作品は何本も拝見していて、すごく憎い敵がいて、その敵を叩き潰して、快楽を得る勧善懲悪モノ的なカタルシスがあるかと思っていたところ、若い主人公2人の成長譚『アキラとあきら』はこれまでの作品とは違うカタルシスを感じさせるところがよかったです。

矜持の違う2人がぶつかり合いながらもお互いに意識し合って、近づいていく辺りは自分がこれまで作ってきた恋愛映画のフォーマットを活かせる部分ではあると思いました。

また、ユースケ・サンタマリアさんが演じる彬の叔父の晋や、江口洋介さんが演じる瑛の上司で産業中央銀行・上野支店副支店長の不動はただの悪役ではなく、彼らにもちゃんと矜持や信念がある。大きな壁である彼らを論破するのではなく、自分の意思を伝えながら乗り越えていく。そこが原作で感動した部分で、自分と意見の異なる人とどう関係性を築いていくのかというところは、今、映画化するべきテーマだと感じました。

男同士のブロマンスを描いた作品が好きなので、そういったことも意識して(撮影して)いました。

©2022「アキラとあきら」製作委員会

──階堂彬が「人を温情で見ていたら、そのうち必ず痛い目に見るぞ」と言うと、山崎瑛が「人を信用できない人間が、人に金なんか貸せるのか」と言います。このセリフにキャラクターの違いを感じました

バンカー(銀行員)としての矜持の違いを最初にぶつけあっておきたいと思って、それを脚本家の池田奈津子さんに伝えたところ、このセリフを書いてくれました。

──文庫本上下巻併せて700ページを超える原作を映画の脚本にするのは難しかったのではありませんか

原作が持っている物語の面白さをいかに凝縮して、2時間の尺に収斂させ、どう起伏を作っていくか。これが難しかったですね。原作は主人公の2人が前半から仲がいいのですが、映画では2人の違いを色濃くすることに意識しました。短い尺でも2人の関係性の起伏を大きく見せ、階堂がスマートに仕事をしているのに対して、山崎が額に汗しながら、泥臭く仕事をしている感じを印象付けたり。

また、2人は子ども時代に直接会っていませんが、映画では言葉を交わしています。”宿命”という言葉を映画の中で何度も使いましたが、この言葉をより際立たせるために、実は昔、会っていたということを1つの軸にして、ストーリーラインを作ったのです。

銀行が舞台なので、専門用語がたくさん出てきます。それが具体的に何なのかがわからなくても、物語の面白さが伝わる脚本にすることも大切です。脚本家の池田さん、プロデューサーと一緒に脚本会議を開いて方向性を決め、基本的には池田さんに書いてもらい、僕がセリフ回しとかにちょこちょこ手を入れさせてもらいました。

©2022「アキラとあきら」製作委員会

──「宿命」が映画のキーワードなのですね

ロスジェネ世代の僕は就職氷河期で苦労しましたが、それでもまだ未来に希望を持てました。ところが今の若い人たちは、最初から重たい荷物を背負って行く先の見えない社会に出て行きます。そんな若い人たちに向けて、「宿命は乗り越えられるものだ」というメッセージを作品に込めて、エールを送りたいと思いました。

俳優のアプローチの違いがキャラクターの違いに

──2人のあきらを竹内涼真さんと横浜流星さんが演じています。竹内さん、横浜さんはそういう理想や希望を画面の中で語ったときに説得力のある俳優ですね

竹内くん、流星くんは僕とは歳が離れている役者さんですが、2人とも脚本を血肉にして、思っていた以上の強さを持ったキャラクターに作り上げてくれました。

ただ、芝居に対するアプローチが違います。流星くんは感情を大事にする役者さん。感情の揺らぎを表面だけではなく、自分の心の内側を揺らして、気持ちを作ってお芝居をする。これは女優さんに多いタイプの芝居で、若い男性の俳優さんがするのは珍しい。一方、竹内くんは強い意志をぶつけていくタイプ。流星くんと竹内くんはキャラクターへのアプローチが違う。そのギャップこそがキャラクターの違いになりうると思いました。

2人がぶつかりながらもひとつのことを成し遂げようと奮闘する姿に現場のスタッフがみな、胸を打たれていました。これは監督冥利に尽きるし、彼らをキャスティングしてよかったと思いました。

©2022「アキラとあきら」製作委員会

──本作は台本の配役欄だけでも71名とのこと。こんなに大勢のキャストそれぞれに見どころを作るのは監督としての手腕が試されたのではありませんか

キャストのみなさんはみなお芝居が達者で、お任せして大丈夫。しかも、どれだけ短くても爪痕を残してくれる方々だったので、現場は楽しくてしょうがなかったですね。

毎日毎日、違う役者さんを撮っていましたが、「この人のシーンをもっと撮りたい」という気持ちになり、演出の苦労というよりも楽しかったという記憶しかありません。僕はただ、オーケストラの指揮者のように関係性の把握や調和の匙加減を差配するバランスに力を注いでいました。

©2022「アキラとあきら」製作委員会

社会の荒波に出て行く、若い世代の応援歌にしたい

──監督の作品はいつも装飾にこだわっていらっしゃいますが、今回は特にどの辺りにこだわりましたか

銀行のリアリティを大事にしたいと美術の禪洲幸久さんに伝えました。映画では稟議書のような類は細かい内容まで見えませんが、銀行監修の方が書類1枚までチェックしています。その上で銀行の営業部フロアに「スケール感がほしい」とお願いしました。本店営業部の迫力は、美術装飾の方々の努力の賜物です。

役者は嘘の書類を見ていても芝居はできます。しかしキャストにも銀行実務の勉強をしてもらいましたから、お芝居の中で見ている数字や文言はリアルなものであればあるほど、お芝居もリアルになる。神は細部に宿ると言いますが、美術を作り込むことで役者の芝居もさらに良くなります。

──監督のこれまでの作品よりも重厚感のある劇伴に驚きました

池井戸さんの作品でみなさんが期待する重厚感を踏襲したいと思ったのです。恋愛映画は人の感情をマクロにフォーカスするもので、そういう作品には抑制した音楽の方が合っていると思います。

しかし、この作品は宿命を抱えた2人の行動が自分の人生だけではなく、従業員とその家族4800人の人生も揺るがすといった大きなスケールの話です。劇伴にはそれも意識しました。

──back numberが本作の主題歌として、新曲「ベルベットの詩」を書き下ろしました。監督の作品への主題歌提供は『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016年)の主題歌「ハッピーエンド」以来、約6年ぶりですね

池井戸さんが「この作品は青臭い」とおっしゃっていましたが、僕はその青臭さこそがこの作品の魅力だと思っています。back numberとは何度か仕事をしていますが、彼らの曲の粗削りなところや自分の気持ちを吐露する感じが瑛と彬が真っすぐに自分の意思を貫く感じと合っていると思い、主題歌をお願いしました。

「ベルベットの詩」はラフ編集の段階でback numberの清水くんに見てもらい、そこで感じたものをそのまま曲にしてもらいました。できあがってきたものを聞いて、感動しましたね。「自分がバンドを始めた頃、この先どうなるかわからないもやもやした気持ちを抱えていたことを思い出して作った」と清水くんは言っていましたが、瑛と彬が足掻きながらも大きな壁に立ち向かっていく感じにぴったりだと思いました。

──公開を前に、今のお気持ちをお聞かせください

これから社会の荒波に出て行く、若い世代の応援歌になればと思って、この作品を作りました。だからこその竹内くん、横浜くんのキャスティングで、back numberの主題歌です。

原作やキャストが素晴らしく、僕自身は撮影も編集も楽しくできました。ご覧になってくださる方も安心して楽しんでいただけるのではないかと思います。

取材・文:ほりきみき/撮影・編集:M&A Online編集部

<三木孝浩監督プロフィール>

三木孝浩監督
三木孝浩監督 ©M&A Online編集部

2000年よりミュージックビデオの監督をスタートし、MTV VIDEO MUSIC AWARDS JAPAN 2005/最優秀ビデオ賞、SPACE SHOWER Music Video Awards 2005/BEST POP VIDEOなどを受賞。以降、ショートムービー・ドラマ・CMなど活動を広げる。

JUJU feat. Spontania『素直になれたら』のプロモーションの一環として制作した世界初のペアモバイルムービーでカンヌ国際広告祭2009/メディア部門金賞などを受賞。

2010年、映画『ソラニン』で長編監督デビュー。長編2作目となる映画『僕等がいた』(2012)が、邦画初の前・後篇2部作連続公開。以降では『陽だまりの彼女』(2013)、『ホットロード』(2014)、『くちびるに歌を』(2015)、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016)など、毎年コンスタントに劇場公開映画作品を発表している。

『アキラとあきら』

あらすじ>
父親の経営する町工場が倒産し、幼くして過酷な運命に翻弄されてきた山崎瑛<アキラ>。
大企業の御曹司ながら次期社長の椅子を拒絶し、血縁のしがらみに抗い続ける階堂彬<あきら>。

運命に導かれるかのごとく、日本有数のメガバンクに同期入社した二人は、お互いの信念の違いから反目し合いながらも、ライバルとしてしのぎを削っていたが、それぞれの前に<現実>という壁が立ちはだかる。

<アキラ>は自分の信念を貫いた結果、左遷され、<あきら>も目を背け続けていた階堂家の親族同士の骨肉の争いに巻き込まれていく。そして持ち上がった階堂グループの倒産の危機を前に、<アキラ>と<あきら>の運命は再び交差する。

果たして、4800人の人生は救えるのか!?
絶望的な状況を前に、【アキラとあきら】の奇跡の逆転劇が始まる!!

<作品データ>
原作:池井戸潤『アキラとあきら』(集英社文庫刊)
監督:三木孝浩
脚本:池田奈津子
出演: 竹内涼真 横浜流星 髙橋海人(King & Prince)上白石萌歌
児嶋一哉 満島真之介 塚地武雅 宇野祥平 戸田菜穂 野間口徹 杉本哲太 酒井美紀 山寺宏一 津田寛治 徳重 聡 矢島健一 馬渕英里何 山内圭哉 山村紅葉 竹原慎二 アキラ100% 奥田瑛二 石丸幹二 ユースケ・サンタマリア 江口洋介
配給:東宝
©2022「アキラとあきら」製作委員会
公式サイト:https://akira-to-akira-movie.toho.co.jp/
2022年8月26日全国東宝系にてロードショー

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