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買収防衛策としての新株予約権無償割当ての差止め仮処分が認められた近時の事案

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買収防衛策としての新株予約権無償割当ての差止め仮処分が認められた近時の事案(最決令和4年7月28日等)

 Y社の株主であるXが、Y社の株主に対する買収防衛策としての新株予約権の無償割当て(「本件新株予約権」)に関し、①株主平等原則に違反し法令違反である、②著しく不公正な方法による発行であるとして、仮差止めを求めた事案において、大阪地裁はこれを認容する仮処分決定を行い(大阪地決令和4年7月1日)、Y社による保全異議の申立てに対し大阪地裁は仮処分決定の認可決定を行い(大阪地決令和4年7月11日)、さらにY社による保全抗告を大阪高裁が棄却した(大阪高決令和4年7月21日)ことから、Y社が許可抗告したところ、最高裁は、許可抗告を棄却し、本件新株予約権の無償割当ての差止め仮処分を認めました(最決令和4年7月28日)。

 本件において、Xは2021年7月30日からY社の株式を市場内で取得し始め、2022年3月31日時点で関係者と合計して21.63%のY社の株式を保有するに至り、取締役の解任を議案に含む臨時株主総会の招集を請求したため、Y社の取締役会は、同年4月8日、X関係者らを対象として、対抗措置として大規模買付者等の非適格者とそれ以外の株主とで行使条件及び取得条項が異なる新株予約権の無償割当てを行うことを、対象となる大規模買付行為等や対抗措置の発動までの手続とともに本件の対応方針として決定しました。同年5月18日、Y社は、取締役会において対抗措置を発動し、本件新株予約権の無償割当てを決定しました。本件新株予約権の内容は、①A新株予約権については、行使条件を非適格者は行使することができないとした上で、非適格者をXやX関係者等とし、取得条項をY社取締役会が決議した場合、行使可能なA新株予約権は普通株式を対価として、行使できないA新株予約権はB新株予約権を対価としてY社が取得できるとし、②B新株予約権については、行使条件をB新株予約権保有者が大規模買付行為等を中止又は撤回し、その後大規模買付行為等を実施しないことを誓約した場合であって、B新株予約権保有者の株券等保有割合が21.63%を下回っているとき、又は株券等保有割合が21.63%以上である場合において、B新株予約権保有者その他の非適格者がY社が認める証券会社に委託してY社株式を処分し、処分後の株券等保有割合が21.63%を下回ったときに、行使後の株券等保有割合が21.63%を下回る範囲内でのみ行使可能とするものでした。同年6月24日には、株主意思確認総会において本件新株予約権の無償割当てが賛成多数で可決されました。

 裁判所は、新株予約権の無償割当てが不公正発行に該当するかについて、近時の有事導入型の買収防衛策に関する裁判例と同様、(1)対抗措置の主要目的(株主の共同利益維持の必要性)と(2)相当性を検討し、主要目的が経営支配権の維持である場合には買収防衛策を正当化するに足りる特段の事情がない限り、不公正発行とするという枠組みに従って判断しております。

 その上で、(1)株主の共同利益維持の必要性については、現経営陣による経営支配権維持の目的があったと推測できるとしつつも、①X以外の株主にとってはXによる経営支配権の取得が及ぼす影響に不確定な要素が多かったこと、②本件対応方針及び対抗措置の目的・内容はX関係者に大規模買付行為等を一旦停止させ、その間に株主に大規模買付行為等の適否を検討する時間的余裕と考慮すべき要素の情報を提供しようとするものであること、③本件新株予約権の無償割当てが株主意思確認総会で可決されていること等を理由に認めています。

 他方、(2)相当性については、①Xが買収防衛策の導入時点で株式の追加取得をしておらず、いかなる行為をすれば大規模買付行為等の撤回に該当するのか明確な認識を持つのが困難であったこと、②大規模買付行為等の撤回方法の内容が株主権としての本質的内容といえる議決権等の共益権を大幅に、長期間制限するものであり、株主が適切な判断を下すための情報及び時間を確保するという目的のために必要な程度を大きく逸脱していること、③Xとその他関係者らの関係性から大規模買付行為等を撤回する方法が実質的に閉ざされていること、④Xらが非適格者であるとの認定が現経営陣による恣意的な認定であることが否定できないこと等を理由に、相当性を欠くとして、差止め仮処分を肯定しました。

 本件は、買収防衛策の導入が株主意思確認総会で可決され、かつ、新株予約権の内容が東京機械製作所事件(最決令和3年11月18日)や富士興産事件(東京高決令和3年8月10日)と類似するものであったにもかかわらず、上記2事件とは異なり、買収防衛策の具体的な運用を考慮して差止め仮処分が認められたという点において、注目に値するものといえます。

パートナー 大石 篤史
アソシエイト 松尾 博美

森・濱田松本法律事務所 Client Alert 2023年1月号(第109号)より転載

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