若者に人気の「風呂なし物件」が格安でもおすすめできない理由

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家賃の安さと昭和レトロで若者が注目している「風呂なし物件」(写真はイメージ)

アパートの「風呂なし物件」が若者に人気と話題になっている。2万〜3万円台という家賃の安さに加えて、建築当時の「昭和レトロ感」が支持されているという。入居者に嫌われていた「風呂なし」の条件も、「アパートの狭いユニットバスよりも、広々とした銭湯の方が良い」のだという。だが、この「風呂なし物件」は本当におすすめなのだろうか?

団塊世代の受け皿となった「風呂なし物件」

50年前のヒット曲「神田川」の歌詞に出てくる「三畳一間の小さな下宿」に若者たちが戻っているという。その多くは大学進学や就職で大量に上京した「団塊の世代」の受け皿として1960年代半ばに建設された、木造2階建てのアパートだ。風呂がないのは当たり前で、トイレや流し台も共同で畳3畳から6畳までの和室に押入れのみという「部屋貸し」の物件も多かった。

しかし、1980年代に入るとバス・トイレ付きのワンルームマンションが主流になり、こうした「風呂なし物件」は人気を失って多くは建て替えられた。何らかの事情で建て替えられずに残った物件が、破格の安値で貸し出されている。

「風呂なし物件」の多くは、新築から50年前後経過している。最大の問題は耐震性だ。内閣府の「阪神・淡路大震災教訓情報資料集」は、「建物の被害は主として現行の建築基準法・同施行令の基準を満たしていない建物(既存不適格建物)に起こった。これらのうち特に老朽化した古い建物が崩壊などの甚大な被害を受けた」と指摘している。

「地震に弱い」が最大のネック

具体的には「被害は1981年以前の建物に大きく、現行の建築基準法・同施行令が改正された1981年を境として建物の耐震性に大きな差のあることがが指摘された」という。「風呂なし物件」の多くは同年以前に建築されており、基準を満たしていない。耐震補強もなされていないものがほとんどで、首都直下型地震が発生すれば大きな被害を受ける可能性が高い。

阪神・淡路大震災では地震当日の死者5036人のうち約3500人が圧死や窒息死などの圧迫死だったが、その多くは倒壊した木造家屋の下敷きで亡くなっている。中には家屋の瓦礫(がれき)に閉じ込められ、その後に発生した火災に生きながら巻き込まれて焼死するという悲惨な事例すらあった。

阪神大震災では木造家屋倒壊による死者の多くは即死だったとみられている。震災時の家屋崩壊は瞬時に起こり、難を逃れるのは不可能に近い。首都直下型地震を想定するならば、1981年以前の基準で建築された「風呂なし物件」は避けるべきだ。

「風呂なし物件」でも耐震強度が保証されているケースはある。1981年以降に建設されたトイレ・シャワールーム付きの極小ワンルームだ。選ぶとしたらこちらだが、家賃も5万〜6万円と高い。しかし、命のためならお金を惜しむべきではないだろう。

文:M&A Online編集部

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