牛丼チェーン大手3社の売上高に明暗が表れてきた。3社が発表した4月の全店売上高は、ゼンショーホールディングス<7550>が運営する「すき家」が前年同月比116.1%、松屋フーズホールディングス<9887>が運営する「松屋」が同109.5%となったものの、吉野家ホールディングス<9861>が運営する「吉野家」は同91.6%と振るわなかった。
前年同月は新型コロナウイルスの影響で3社ともに前年実績割れだったため、すき家と松屋はコロナ前の状況に戻りつつあるものの、吉野家は一段と状況が悪化したことになる。
店舗数を見ると、すき家は1940店舗(2021年4月)で、前年同月より2店舗増えており、コロナ禍の中でも出店を維持したことが分かる。松屋フーズホールディングスは1184店舗(同、このうち松屋は955店舗)で、前年同月より12店舗減少(このうち松屋は8店舗)、吉野家も1189店舗(2021年2月)と前年同月より25店舗減少した。
この店舗数の増減が、そのまま売り上げの前年同月比に表れた形だ。ただ既存店で見ても、すき家は同114.2%、松屋は同108.8%なのに対し、吉野家は同89.9%となっており、店舗ごとの収益力にも差があることが分かる。吉野家はこの劣勢をどのように跳ね返そうとしているのか。
吉野家HDは2022年2月期に、コロナ禍で抑えていた出店を再開する計画で、2021年3月から2022年2月までの間に、吉野家を27店舗出店し、17店舗閉店する。これによって合計の店舗数は前年度よりも10店舗増え、1199店舗となる。
同時に店舗の形態も変えることにしており、これまでのU字形のカウンターを取り除き、ソファやテーブル席を設置した、ゆっくりと過ごせる「クッキング&コンフォート」という新型店舗への改装を進める。
さらにテイクアウトにも力を入れる方針で、テイクアウト専用タブレットや テイクアウト受取窓口、テイクアウトロッカーなどを増やす。メニューについても見直しを進め、リピート率、客数効果の高いメニューに絞り込み「強い物をより強く」することで、生産性と集客力を高める作戦だ。
【牛丼大手3社の月次売上高の前年同月比】単位:%
すき家 | 松屋 | 吉野家 | |
2020年 4月 | 87.6 | 78.5 | 97.6 |
2020年 5月 | 90.7 | 78.8 | 94.0 |
2020年 6月 | 92.1 | 84.8 | 89.0 |
2020年 7月 | 103.8 | 90.1 | 96.0 |
2020年 8月 | 100.0 | 89.2 | 84.6 |
2020年 9月 | 99.4 | 86.8 | 92.9 |
2020年10月 | 106.5 | 98.3 | 102.7 |
2020年11月 | 102.1 | 92.1 | 95.2 |
2020年12月 | 102.5 | 91.4 | 90.4 |
2021年 1月 | 101.2 | 85.5 | 92.2 |
2021年 2月 | 89.9 | 78.3 | 84.4 |
2021年 3月 | 105.8 | 92.1 | 91.4 |
2021年 4月 | 116.1 | 109.5 | 91.6 |
吉野家HDは2022年2月期のグループ経営方針として「勝ち馬の足場を固める」「足場を固め次なる跳躍に備える」を掲げている。
新店舗への改装投資やテイクアウト対応、メニューの見直しなどはこの方針に沿ったもので、2021年4月に実施した持ち帰りずし店「京樽」の売却などもこの一環だ。さらに長期的視点に立った新たなM&Aによる成長事業の育成や、新業態の創出などにも取り組むという。
出店を再開し、既存店の収益力強化に乗り出した吉野家の月次売上高が反転するのはいつのことになるだろうか。
文:M&A Online編集部