止まらぬ円安、政府・日銀の介入はむしろ「逆効果」か?

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円安を食い止める妙手は?(写真はイメージ)

円安が止まらない。6月13日、ついに1ドル=135円台をつけた。1971年のニクソンショック以降「円高は悪、円安は善」だった日本経済のセオリーも、対外競争力の低下で状況が一変。輸入価格の値上がりなど物価高要因になるとして、日本政府や日本銀行が「行き過ぎた円安」に警鐘を鳴らしはじめた。

「介入宣言」でも円安は止まらず

円高の場合は政府・日銀が介入を示唆しただけで、一時的にせよ円は値下がりした。こうした「円高時代」が長く続いたからか、円安も政府・日銀が積極介入すれば解消するのではないかとの見方もある。だが、どうもそれは「甘い」見通しのようだ。

政府・日銀は先週金曜日の10日、国際金融資本市場に関する情報交換会合(3者会合)を受けて、「最近の為替市場では急速な円安進行が見られ憂慮している。必要な場合には適切な対応を取る」との声明文を発表した。政府・日銀が円安に介入すると、公式に「宣言」したのだ。

ところが為替市場は円高に戻すどころか反対に円安に振れ、一時は同133円46銭まで下落した。神田真人財務官は会合後に「適切な対応はあらゆるものを含む」と説明したが、為替市場に見切られた格好だ。そして翌営業日の13日に135円台に突入した。

円安介入としては「ドル売り円買い」がある。政府が保有する米国債などの外貨建て資産を売却して、円を買うことで円高に誘導する。かつて円高時代に実施した「円売りドル買い」と反対の介入だ。「円売りドル買い」であれば日本国債と引き換えに日銀が円を発行すれば、いくらでも実施できる。円を大量発行すれば供給過剰で価格が下がる、すなわち円安になる仕組みだ。

一方「ドル売り円買い」は、政府が保有する外貨建て資産の範囲内でしか介入できない。つまり「円売りドル買い」に比べると、介入規模は小さくならざるを得ない。為替市場もそれを見越しているから、円に限らず通貨安の解消を狙った政府や中央銀行の介入は難しいのだ。

政策金利の引き上げは「諸刃の剣」

もう一つの方法は政策金利の引き上げだ。そもそも今回の円安の要因の一つとされているのが、日米の金利格差。日銀が「ゼロ金利政策」を取り止めて政策金利を米国以上に引き上げれば、円高に転換するはずだ。が、同135円を突破した。

まさにその日、黒田東彦日銀総裁が参院決算委員会で「金融緩和を粘り強く続け経済を支援する」とゼロ金利政策の堅持を表明。米国は今後もインフレを抑えるため、利上げに動くと見られている。日米の金利差はさらに拡大し、さらなる円安ドル高を招くことになるだろう。

とはいえ仮に日銀が政策金利を引き上げたとしても、円安を解消するのは難しいかもしれない。政策金利を引き上げれば景気が減速するからだ。国内景気の悪化は通貨安を招く。黒田総裁が利上げに慎重なのは、日本経済の悪化を懸念しているから。円安誘導のために利上げをしても、かえって円安を招き、そのうえ国内景気にブレーキがかかるようでは意味がない。

円高は「円が強すぎる」ことであり、ある意味「手抜き」をして弱体化すればよいから「楽」だ。半面、円安は「円が弱すぎる」ことなので「楽」はできない。「真剣な努力」をして、日本経済の力を引き上げるしかないのだ。

事実、通貨安で国内経済が破綻するデフォルト(債務不履行)を経験した国は、長い期間をかけて通貨を安定させた。通貨安を解消できていない国も少なくない。かつての「円高解消」のような短期間での解決は不可能と覚悟しておくべきだろう。「円安」解消の長い戦いは始まったばかりだ。

文:M&A Online編集部

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