「名門ゼロックスの買収劇」アメリカメディアはどう報じたか

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2018年1月31日に発表された、富士フイルムホールディングス<4901>による米ゼロックス買収。アメリカを代表する老舗企業の買収は、同国内でどう受けとめられたか。

「消滅やむなし」 冷ややかな反応

主要メディアをざっと見るかぎり、ゼロックスの買収が、ビジネス界に影響を及ぼすとの分析は少ない。そもそも、ゼロックスが複写機やドキュメント・ビジネスから抜け出せず時代の波に乗り遅れた経緯は、経営戦略の観点からは「典型的な失敗」として扱われやすい。それも影響してか、記事の流れとしては100年を超える同社の歴史を回顧し、感傷的なフレーズを用いつつ、「消滅やむなし」「栄光の過去」などと締めくくるものが多い。ただし、ウォールストリートジャーナル(2月12日)のように、今回の買収計画に猛反対するアクティビストの発言を取り上げる記事もある。

以下、代表的なアメリカ国内メディアの見出しと要旨を紹介する。

「一つの動詞だったゼロックス、買収によって過去形に」
ニューヨークタイムズ(1月31日)は、「ゼロックスが一つの動詞だった時代は終わり、買収によって、動詞は過去形になった」との見出しで長文記事を掲載し、名門企業の歴史をふりかえった。同紙は、今回の買収が「かつてのアメリカ国内最強企業の終焉」を意味すると指摘。1959年に発売されたゼロックスの高級複写機は近代技術のシンボルであり、「ゼロックスする(コピーをとる)」という動詞にさえなった。当時のハイテクの「魔法」は、スティーブ・ジョブズが約50年後にiPhoneを世界に発表したときにも似ていた。同紙はそのように解説したうえで、「ゼロックスがカーボン紙を時代遅れにしたのと同様、iPhoneやクラウドがゼロックスを過去の企業へと追いやった」と結論づけている。

富士ゼロックスR&Dスクエア
名門ゼロックスは富士フイルムHDの傘下に(富士ゼロックスR&Dスクエア) Photo By Kakidai

イノベーションに乗り遅れたゼロックスにはベストの選択

「イノベーションのレースに敗れたゼロックス」
ハーバードビジネススクールのデイビッド・ビー・ヨフィー教授は、「ゼロックスは、新世代技術へ移行できない独占技術ビジネスの代表選手」とコメントした。同教授によれば、ある企業が高く飛躍しても、次なる躍進については隙がある。ゼロックスも、コダックやブラックベリー同様、革新のレースの敗北者であり、いわゆる“コンピテンシートラップ(高業績者の行動特性が陥りやすい罠)”そのものである。一つのことに熟達した組織は、新しい事業を学べなくなってしまう。

具体的に記事は次のように解説している。ゼロックスは好調時には新技術の研究所の新設に加え、1973年にマウスを使ってウインドウを操作する世界初のGUI(グラフィカルユーザインタフェース)環境を開発して現在のパソコンの原型となる「Alto(アルト)」を制作したが、高額すぎて商品化には失敗。1980年代になると、コピー技術の特許が消滅し、キヤノンやリコーなどとの低価格競争に直面した。そこで金融サービスに手を出したが失敗し、1990年代にはそのすべてを売却。同時期から、ゼロックスは、Eメールと文書を電子送配信する世界中の企業との戦いにもさらされた。ペーパーレス化の推進はゼロックスの特権をむしばんだ。近年、ゼロックスは、事業サービスに触手を伸ばしている。具体的には、会社の文書の流れの改善、健康事業、人事などであり、高速道路のETCの受注などに成功。しかし、コピー事業を埋め合わせるには至っていない。

アルト
米アップルの創業者スティーブ・ジョブズが「マッキントッシュ」の参考にしたといわれているゼロックス「Alto」 Photo By Eric Fischer

「ゼロックスにとってはベストの選択肢」
ブランダイス国際ビジネススクールのベン・ゴメス・カッセール教授は、今回の合併が「最善の道」だと評価した。同教授によれば、富士フイルムとの合弁は1960年代に始まったが、ゼロックスにとっては「光明」だった。当初はより強力なパートナーだったゼロックスは、技術とノウハウを共有し、日本のパートナー(富士フイルム)から恩恵を受けてきたという。記事は、「富士フイルムなしには、ゼロックスは何年も前に破綻していたかもしれない。」と結論づけている。

いずれはアマゾンやグーグルも

アイカーン氏いわく「買収は『死を告げる鐘』」
ウォールストリートジャーナル(2月12日)は、アイカーン氏とディーソン氏の発言を紹介した。2人はゼロックス株の15.2%を支配しているが、株主総会で反対の投票をすると表明し注目を集めている。2人は企業価値の3分の1に当たる25億ドルの特別配当と、ゼロックス経営陣を批判。合併の発表前、彼らは、CEOのジェフ・ヤコブソン氏の更迭を求めていたが、新会社でも経営は続行される模様。2人は、富士フイルムの買収計画を「死を告げる鐘」と批判していると、記事は述べている。

「ビジネスのアイコンだったゼロックス、消滅へ」
ロサンゼルスタイムズ(2月13日)は、ゼロックス、コダック、GEの3社を「一時はアメリカ国内で絶大なる地位を築きながら消えゆく企業」として挙げたうえで、次のように解説した。ゼロックスは、PCへの変革の機会を逃したといって、しばしば軽蔑的な笑いの対象になる。しかし1970年代のゼロックスは、「方向転換が不可能な巨大戦艦」だった。本業で十分な成果を挙げていながら、根幹から自分自身を変えるのは至難の技である。アマゾンもグーグルの将来もゼロックスに続く危険があることを肝に銘じる必要がある。

アマゾンやグーグルのような先端企業にも、いずれ「死」は訪れる

参照URL
https://www.nytimes.com/2018/0...
https://www.wsj.com/articles/x...
http://www.latimes.com/busines...

文:Yuu Yamanaka/編集:M&A Online編集部