この先の「円高」を全く期待できない三つの理由

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バブル期真っ盛りの1990年以来の円安に(写真はイメージ)

バブル期真っ盛りの1990年以来、32年ぶりに1ドル=148円台後半まで下落した日本円。当面は150円台の壁を突破するかどうかが注目されている。多くのエコノミストは過去の為替揺り戻しトレンドを根拠に、110円台程度の円高になるのではないかと予測している。だが、その見通しは甘いかもしれない。

過去最大の貿易赤字が円安要因に

現在の急激な円安は日米の金利差によるもの、というのが一般的な理解だ。確かにインフレ懸念から米国の政策金利は3.25%まで上昇、日本の-0.042%を大きく上回っている。この金利差が「円売り・ドル買い」につながっていることは確かだ。

しかし、為替相場は金利差だけで決まるわけではない。第一に貿易収支。日本の輸入が増えると支払いにドルを使うために日本円を売って米ドルを買う動きが強まり、円安・米ドル高になる。財務省が10月11日に発表した8月の国際収支統計(速報)によると、貿易収支の赤字は過去最大の2兆4906億円になった。

輸入額が前年同月比52.9%増の10兆5502億円と急増したためで、単月赤字で10兆円を超えたのは初めて。悪いことに円安が進むと、外貨建てでは同じ価格でも輸入額は割高となる「負の連鎖」に陥る。

この連鎖を断ち切るには輸入品を自国で生産するしかない。が、日本の輸入品の多くは資源であり、国産化は不可能だ。つまり、貿易収支の大幅赤字は続くことになる。

財政赤字や外貨準備高の減少も

第二に財政赤字も円安に効いてくる。財政赤字と為替相場に直接の関係はないが、市場心理として為替安に働く。借入金の多い企業の株価が下がるのと同じだ。万一、デフォルト(債務不履行)になると、その国の通貨は破綻企業の株式同様に暴落してしまう。

そのおそれが高まる分だけ、投資家は財政赤字が大きい国の通貨を売ってリスクを回避しようとする。それが通貨安を招くのだ。

欧米先進国も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策で大規模な財政出動をした結果、財政赤字が拡大している。しかし、日本の2021年政府債務残高はGDPの262.49%と、米国の128.13%や英国の95.35%、ドイツの69.64%、韓国の51.33%などに比べて段違いに多い。

経済が破綻し、大量の難民が米国に押し寄せているベネズエラの240.52%を超えているのだ。財政赤字の解消には極めて長い時間がかかる。円安要因として長く尾を引きそうだ。

第三に外貨準備高の減少。日本はその多くが米国債だ。外貨準備高が豊富にあれば、基軸通貨であるドルでの支払い能力があることになり、通貨の信頼性は増す。

反対に外貨準備高が減少すると、通貨の信頼性も揺らぐ。2022年8月末に日本の外貨準備高は1兆2920億7200万ドル(約191兆6000億円)と、前月末よりも309億6200万ドル(約4兆5912億円)ほど減少した。

政府・日銀が24年ぶりに実施した9月の為替介入で、さらに2兆8000億円(約188億ドル)が流出している。外貨準備高は為替介入の原資でもあり、枯渇すれば介入もままならなくなるため、為替市場での売り叩きを誘発する要因となる。

いずれの円安要因も、簡単には解消しない。むしろ最も早く手を打てるのは、政策金利の引き上げだろう。これだけは純粋な「政策」であり、政府・日銀の判断次第だからだ。残る三つの要因は経済事情であり、政府・日銀と言えども意のままに操れるわけではない。

根本的な解決法は、わが国の経済力を向上するしかないのだ。そのためには日本経済の構造改革が必要で、それこそ10年単位での取り組みが必要になる。円安が本格的に解消するには、それだけ長い時間がかかるということだ。

文:M&A Online編集部

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