現代自動車はなぜEV「アップルカー」の受託生産に慎重なのか?

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現代自のEVコンセプトカー。すでに同社は世界3位のEVグループを形成している。(同社ホームページより)

「アップルが現代自にEVを委託生産する」―2021年1月8日、米アップルが電気自動車(EV)の委託生産先として韓国・現代自動車と交渉を進めているとの報道が駆け巡った。現代自は同日、「米アップルと協業を検討している」とのコメントを発表した。

自動運転EV「アップルカー」量産を決めたアップルのティム・クックCEO(同社ホームページより)

アップル、現代自にEV生産を打診

10日には韓国コリアITニュースが「2024年ごろに米国生産を始める」と踏み込んだが、現代自はこれを認めず、記事内容も大幅に削除された。「現代自は迷っている」との声も聞かれる。EV生産台数を引き上げるには「絶好のチャンス」に見えるアップルカーの量産に、現代自が慎重な理由は何か?

コリアITニュースによると、2021年3月中に両社がアップルカーの協業契約を結び、3年後には米ジョージア州にある現代自傘下の起亜自動車工場を利用するか、共同で新たに建設する年間生産能力40万台のEV工場で量産に乗り出す。初年度は10万台でスタートする予定という。2022年にも量産に向けた試作車を完成させるという。

この報道に対して現代自は「アップルは世界の自動車メーカー数社と協議を進めており、現在の交渉は初期段階であって何も決定したことはない」とする8日のコメントを繰り返し、コリアITニュースも契約締結や量産開始の時期や生産計画などの具体的な情報をウェブニュースから削除している。 

現代自は2020年1−11月累計のEV・プラグインハイブリッド車(PHV)総販売台数が世界10位の8万1873台。これだけでも国内ではトップである日産自動車(世界15位)の5万3590台よりも多いが、傘下の起亜(同12位)の7万7293台を加えると15万9166台と、米テスラの40万7710台、独フォルクスワーゲンの16万6745台(グループでは29万6803台)に次ぐ世界3位のEVメーカーグループだ。

「単なる下請け」になる懸念も

それだけに現代自はアップルカーの受託生産に慎重なのだという。なぜなら現代自は2020年10月に就任したチョン・ウィソン会長主導で今後5年間に12車種のEVを発売し、2025年には年間56万台を販売する計画だ。

急速なEVシフトにより、受託生産を引き受けるだけの余力がないのではとの観測がもっぱらだ。現代自としてはアップルカーを生産するぐらいなら、自社のEVを一台でも多く生産したいのが本音だろう。 

さらにモデルの競合問題も懸念される。アップルカーは高いブランド力を持つ上に自動運転EVであるため、高級モデルになりそうだ。現代自は高級車ブランド「ジェネシス」でのEV展開も進めており、アップルカーと市場で競合する恐れもある。

高級車「ジェネシス」のEVモデルは「アップルカー」と競合する恐れも(同社ホームページより)

付加価値が高い「ドル箱」の高級EVで「敵に塩を送る」ことになるアップルカーの受託生産は、現代自にとって確実に利益が取れる事業とはいえ悩ましいところだ。

韓国自動車研究院のイ・ハング上級研究委員は「アップルとは単なる下請けではない対等な関係になるべきだが、そのために必要な現代自の技術提携面での組織スラッグ(余裕資源)が足りていないのが現実」と指摘している。アップルと現代自のEV協業は一筋縄ではいかないようだ。

文:M&A Online編集部